第3話 side最強の矛《ゲイボルグ》1
「あぁ?! アリスが脱退しただぁ?! どう言うことだ!!」
午後から向かうS級ダンジョンの下見に向けて、ヒリテスとシルストナと共に準備という名のデートから戻ったマザマージは、副マスター室にてスィエンからの報告を受けて激昂していた。
「そ、それが突然脱退するとだけ伝えに来まして……。なんとか引き留めようと後を追ったところ、ロードのやつがいました! おそらく、あいつがアリスを誑かしたのかと……」
「テメェはアリスがロード風情に誑かされるような、やすい女だっつってんのか……? あぁ?!」
「い、いえ! そんな! 滅相もありません!!」
報告は以上ですと深く頭を下げると、急いで部屋を出ていこうと踵を返すスィエン。
一発ぶん殴りたい気持ちを抑え、マザマージはしかめっ面でスィエンの背中を睨みつけた。
「チッ、まぁいい。それより、なんでアリスがロードと一緒にいる……?」
まさかとは思うが、自身が何度声をかけても全くなびくことのなかったアリスが、ロードを追いかけてクランを抜けた……?
ふと頭を過ぎった到底認めたくもない予想。
当然受け入れられるはずのないマザマージはすぐさま雑念を振り払うと、頭を切り替える。
――確かにアリスはロードをやたらと買っている節があったが、あんな
アリスは是非とも俺のハーレムに加えたいんだ。
あの顔にあの胸、あれほどの上玉は中々お目にかかれるもんじゃねぇからな。
普段はわからねぇようにしてるみたいだが、夜営の時に偶然気づいた法衣の下に隠されたどでかい双丘。
あれはたまらねぇ光景だった――。
ゲスな思考で頭がいっぱいになったマザマージは、下手に手を出して完全に拒絶されることを避けてきた今までの自分を呪いながら、いずれ自分の魅力に気づくだろうと考え直す。
「どうしましょう? 今日の下見は一度延期かしら?」
「いや、その必要はねぇだろ。ひとまず仮の回復要員は確保するが、アリスもいずれここのありがた味に気づいて戻ってくるはずだ。あの
「そう? なら良いのだけど」
艶のある紫の髪をいじりながら、まるで他人事のように返事をしたヒリテス。
シルストナも全く関心がないのか、手鏡で自分の顔を見つめてうっとりとしている。
マザマージは二人の美しい容姿に見惚れつつ、ようやくこの場に目障りな男がいなくなったことを改めて噛みしめた。
――火力としても中途半端。サポートとしても中途半端。
唯一の長所であった索敵や夜営時の見張り番は、別にあいつでなくともできる。
むしろ、本職のほうがより幅広いことができるはずなので、あんなどっちつかずのコウモリヤローより遥かに有能だろう。
そのくせ事あるごとに自分こそ正しいと言わんばかりに口出ししてくる所が、目障りで仕方なかった。
それは二人も同じだったようで、
アリスには後から適当に説明するつもりだったが、この際仕方ねぇ。
この街で『天翔』に逆らったらどうなるかなんて、子供でもわかる事だからな。
そのうちどれだけこのパーティーに価値があり、どれだけ今まで強い俺という存在に守られていたのか再認識すれば、泣きついてくるだろ。
そうなりゃこっちのもんだ――。
悦に浸ったマザマージはいずれアリスも自分のものにできると確信し、満足そうにニヤリとほくそ笑んだ。
程なくして、ロードに代わり新たに『
その姿を見て、マザマージは内心で何度もガッツポーズを作り舌舐めずりする。
クランマスターからはスキルと冒険者等級しか聞いていなかったので、まさか女でそれも極上の美女であるなどとは思っていなかったのだ。
「初めまして、アタシはメルシー。盗賊のスキルを持つB級冒険者よ。今日は宜しくね」
胸元が大きく開いたセクシーな衣装を見に纏う、メルシー。
エルフの特徴である耳はツンと上に向けて尖り、薄緑色の長い髪を短く切りそろえている。
まるでエメラルドのような翡翠色の瞳、わずかに垂れた目元。
大人びた風貌も相まって、とても柔和な雰囲気を醸し出していた。
ヒリテスは一瞬視線を向けて宜しくとだけ一言告げ、シルストナは対抗心剥き出しで握手を交わす。
メルシーはマザマージとも握手を交わしたが、爽やかな笑顔の下に何かを隠している気がしてならなかった。
三人に独特な雰囲気を感じつつも、マザマージから回復担当が所用でしばらくパーティーを離れることになったとの説明を受けてから、共に今日の目的であるS級ダンジョンへと向かう段取りを確認していく。
彼女に取っては念願の大クランの1つである『天翔』からの声がけということもあり、多少のことには目を瞑ってでも正式に加入したい所だった。
ましてや、所属予定のパーティーがあの『
「アリスが不参加ということもあって、所持品などを変更したり追加したりする必要もあるだろう。出発は一時間後にするから、それまでに万全の状態にしておいてくれ」
「わかったわ。それじゃあ、また後で」
買い出しに向かうために一度部屋を後にしたメルシーの後ろ姿を見送ったマザマージは、心の中でどうやって口説き落とそうかと考え始めていた―――。
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