第3話 こくはくさん神社の娘
賽銭泥棒だと思ったお姉さんは、本当に『こくはくさん』神社の娘だった。
神社の敷地内に住居もあって、神主さん(つまりお姉さんのお父さん)にも会わせてもらったからもう疑いようがない。
お賽銭をいただくときはちゃんと着替えろと怒られていた。(お姉さんは巫女さんの衣装を着るのが面倒で、学校の制服を着たらしい)
「巫女さんの衣装着ると写真撮られたりするから嫌なんだよね」
こんな田舎にわざわざ巫女さんの写真を撮りに来る人が居るなんて思えなかったけど、マニアの行動力はすごいらしい。そんな世界もあるんだ……。
「それにしても、私のこと、泥棒するようなヤツに見えたんだ?」
「え、えっと、それは、その……」
しどろもどろになる私を見て、お姉さんが意地の悪い笑みを浮かべた。
「うそうそ。ごめんね。勘違いさせるようなことした私が悪い。ちゃんと注意できるなんてすごい子だなぁと思ったよ」
思いがけず褒められて、何も言えなくなってしまう。
このお姉さんともっと話したい。というか、G高校に受かるためにどんな勉強をしたのか知りたい。
「あ、あの! その制服、G高校ですよね? 私、そこ目指してるんです」
「お、受験生なんだ? あぁ、それでうちの神社にお参りに来てくれたんだね、ありがとう」
「はい。それで……」
私はあれこれと受験勉強の方法について質問をかさねる。立ち話もなんだし、ということで私たちは縁側に座って話をした。
お姉さんは後輩になるかもしれないもんね、と言って親切に教えてくれた。
ひとつの問題集を分からない問題がなくなるまで繰り返し取り組んだり、友達とLINEグループを作ってその日勉強したノートの写真を送って褒めあったりしていたそうだ。
他にも、G高校の部活動やスポーツ大会、文化祭についても教えてもらった。ちなみにお姉さんは神社の手伝いもあるから、部活動には入っていないらしい。
ひとしきり知りたいことを聞き終えた私は「そろそろおいとまします」と腰をあげた。
「ありがとうございました」
「いえいえ。受験、頑張ってね」
お姉さんはひらひらと手を振りながら言う。
「はい!」
実際にG高校に受かった人に言ってもらえると本当に心強い。すると突然、こんなことを聞かれた。
「……ねぇ、家は近いの?」
「? はい、ここから自転車で五分くらいです」
「じゃあ、よかったら一緒に勉強しない? あなたは受験勉強、私は夏休みの宿題をする。どうかな?」
「えっ」
「あー、急だよね、ごめん。でももし気が向いたらまた来てよ。ここ、私のウチだからさ」
お姉さんは両手をめいっぱい広げながら言う。
「う、疑ってすみませんでした……」
いいひとだけど、ちょっと意地悪だ。
お姉さんとはそこで別れて、入口へ向かう。帰り際、『こくはくさん』の方を見たけれど、誰も居なかった。
もうすっかり太陽が地面に照りつけていて、私は自転車を立ちこぎしながら家へ帰った。
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