第4話 病院での確信
産婦人科をナビで検索し、車を走らせる。
車中でもラジオを流し、少しでも「神の声」に関する情報が無いか耳を澄ませる。
どうやら未だに「産婦人科の異常事態」は継続しているそうだ。子どもが産まれない、いや、成長をしていないらしい。
俺は事故に注意しながら車を走らせる。
「森本産婦人科...ここで手がかりをつかめたら良いが...」
10分後産婦人科に到着した。カメラマンや野次馬など想像よりも遙かに大勢の人が集まっていた。
俺は分け入るように人混みをかき分け、今日出産予定の妻の夫を名乗り産婦人科の中に侵入した。受付まで案内されると同時に、多少強引だが、トイレが我慢できないので先にトイレに行っても良いかと言いその場を離れた。
「ふぅ...にしても凄い人だな。さて、ここまではいい。後は赤ん坊がいる部屋を探すだけだが...」
この森本産婦人科がある病院はとても大きい。階は3階までだがたくさんの部屋があり、外科や内科などいくつもの病院が併設している総合病院だ。
俺はトイレの入り口付近にある病院案内図に目を通す。
「2階のE棟...203号室。どうやらそこに産まれたての赤ちゃんがいるらしい。」
俺は病院の縮図を写真に収め、E棟に向かった。
E棟につくと同時に可愛らしい声が聞こえる。赤ちゃんの産声だ。オギャーオギャーと泣き叫んでいる。
203号室につく、10人の赤ちゃんがカプセルのようなものに入れられている。どうやらこの203号室が産まれて間もない赤ちゃんが移動する最初の部屋だそうだ。俺以外にも2人、赤ちゃんの親であろうパパがいる。ここまで来てしまえば誰も俺を部外者だとは思うまい。そう思い、俺はパパであろう人物に尋ねることにした。
「可愛らしいですね。失礼ですが、どちらがお子さんですか?」
急に話しかけられたので最初は驚いた様子だったが、すぐに我に返り俺と話しをしてくれた。近づいて見てわかったのだが、この方は口元にほくろが2つ揃ってあり、それがなんとも大人の色気を醸し出していた。
ほくろパパ?
「左から2番目の子です。男の子なんですが、元気に産まれて良かった...ただ...」
「ただ...?」
ほくろパパ
「おたくもパパならわかっているでしょうが、産まれてからかれこれ1週間になるのですが、いつまで経ってもあのカプセルから出られないそうで、院長さんいわく、まだ体温が安定していないため下界の温度にさらすのは危険と言われました。長男の時は3日ほどで出られたのですが...」
この情報は貴重だ。俺の中で神の声が確信に変わる大きな一歩だ。
「そうですね。私の娘もそうなんです。すいません急に話しかけて、同じパパ成り立てで不安でして...ありがとうございました。」
そう台詞を残し俺は看護婦さんに確認を取るべくその場を後にした。
ほくろパパ
「今、あの人『私の娘』って言わなかったか?この203号室の10人はみな男の子のはずだが...」
俺は203号室を後にし、看護婦さんを探した。ちょうど曲がり角を過ぎた辺りに3人で会話している看護婦さんを見つけた。
「すいません。一点お伺したいのですがこちらの産婦人科でも新しい赤ちゃんは産まれていないのですか?」
看護婦A
「ええ...5日ほど前から...」
看護婦B
「失礼ですがどちら様です?」
「あぁ失礼しました。私左から2番目の息子の父親でして、いつになったらカプセルから出していただけるのかなと」
看護婦C
「あぁパパさんでしたか。そうですね、普段ならもうカプセルから出ている時期なのですが、息子さん含め全ての赤ちゃんの成長が遅くてですね...今カプセルから出すのは危険だと院長が...」
「そうですか...ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。」
看護婦A・B・C
「(ペコリ)」
そうお礼を言い、俺はE棟を後にした。
看護婦A
「あれ?左から2番目って山田さんよね?山田さんのお父様ってあんな感じだったかしら?もう少しダンディなイメージだったけど...」
看護婦B
「あーそうそう!あの口元のほくろが特徴的な方よね?」
ほくろパパ
「すいません。息子の事で聞きたいことが...」
看護婦C
「どうされました?」
ほくろパパ
「左から2番目の子なんですが...」
看護婦A・B・C
「えっ?」
俺はE棟から離れ特別棟であるZ棟に向かって歩いている。
「神の声の確証まであと少し、あと少しで俺の疑問は晴れる。急ごう。」
Z棟につくとそこはE棟とは全く違う空気感だった。
Z棟はいわば「症状末期」の人が看病される棟である。重い病気を患っている患者、大規模手術が必要な患者、余命を告げられた患者もいる。その中で俺は親族を装い病院関係者を探す。ちょうど702号室から出てくるナース服の女性がいたので話しかけることに
「突然すいません。少しお話よろしいでしょうか?」
ナース服の女性
「はい?どうされました?」
「不躾で申し訳ないのですが、このZ棟の患者さんで最近不可解なこととかないですか?例えば、症状の進行が遅いとか...急に症状が穏やかになったとか軽くなったとか...」
ナース服の女性
「いえ...特に変わったことは無いですね。あまり他言をしてはいけないのですが、先日亡くなった方も院長に余命宣告されていたようでして...症状が穏やかになったとかなどは無いですね。悲しいことです。」
「そうですね...すいません急にこんなことを聞いて、親切に応えてくれてありがとうございました。」
ナース服の女性
「いえ...お気をつけて...」
Z棟を後にしようと俺は階段を降りる。それと同時にあることがわかった。
「神の声...あれは本当だ...」
産婦人科の情報とZ棟での情報を下に俺の中で疑問が確信に変わった。その瞬間、俺を祝福するかのようにポケットから音がした。
ピピピピピピッ
聞き覚えのある着信音。
俺は急な音に驚き、すぐさま携帯を見る。画面には今見たくも無い文字が浮き出ている。
『営業課 主任』
会社からの電話だった。
ふぅ...とため息をつき、俺は応答ボタンを押す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます