魔物がブスなら斬って、美人なら斬れないのおかしくね?

ちびまるフォイ

もっと倒しやすい見てくれであってくれ

「村の者たちはもう限界なんですじゃ。

 あの島にいる悪い魔物を倒してきてくださいですじゃ」


「任せてください。あなた達のような弱者を救うために

 この大いなる力を剣をゆずり受けたのですから!」


「おお、勇者さま! なんと頼もしいですじゃ!」


「秒殺してきますよ、はっはっは」


勇者は舟に乗るのもおっくうで、飛行魔法で島へひとっ飛び。

魔物としてもこんなにも早く、すべての警戒網を突破されたのは初めてだろう。


「さぁ覚悟しろ魔物ども!! お前らがもう悪さできないようにしてやる!!」


島の魔物たちに叫んだ勇者だったが、

目から飛び込んでくる映像を理解するや声のボリュームは一気にダウンした。


「きゃーー! 侵入者!」

「みんな、やっつけるわよ!」

「お姉さまひとりにはさせませんっ」


「あ、あれぇーー? なんか思っていたのと違う……」


魔物は魔物だが、その見てくれはどうみても女性そのもの。

さらに言えば、古今東西あらゆる美人を集めたような中学生男子が鼻血を出す光景だった。


「あの、魔物……なんですよね……」


「ええ、ここに角が生えてるじゃない」


まごうことなき魔物にして、比類なき美人。

これを斬るというのは世界の名画に落書きするほどためらわれる。


「……よ、よし。今日のところはこれくらいにしておいてやる!!」


「ええ!?」


臨戦態勢の魔物をそのままに勇者は村へと戻っていった。

勇者が戻ってくると村の人達は歓迎してくれた。


しかし、顔面偏差値を比べてみると明らかに魔物のほうが優れていた。


「勇者さま! ついに魔物を倒されたんですね!!」


「あ、うーん……それは、その……」


「なんだか歯切れが悪そうですな?」


「実は……ま、魔物が想像していたより強くって……は、ははは」


「な、なんと! 勇者さまの能力を持ってしても倒せないとは!

 やはりそれほどに強力だったんですね!」


「そ、そうなんだよーー……だから倒すのに時間かかるなーー……」


「わかりました。では勇者さまが次こそ倒せるように、

 村では全面的にバックアップいたしますぞ!!」


村は勇者に対して最高の装備を整え、防具を新調し、魔力を与えまくった。

できれば魔物を倒したくない勇者は、島に行っては倒されたとごまかして日々を過ごした。

その姿はリストラを家族に言い出せないサラリーマンのような風情すらあった。


しかし、そんなごまかしがいつまでも通じるはずもなく。


「勇者さま、本当に倒す気があるのですか!?」


「あ、あるとも! ありまくるとも!!」


「もう10回以上も島に行ってるのにまったく進展がないじゃないですか!

 魔物の首のひとつでも持って帰ってくるどころか、いつも手ぶら!

 勇者さまからはやる気を感じられません!」


「それは……君たちはあの魔物の強さを知らないからそんなことを言えるんだよ」


「とにかく、これ以上勇者さまが魔物攻略をしてくれないのであれば

 村の人達もこれ以上力を貸すことはできません!!」


「わかったよ! 今度こそ倒しに行くって!!」


勇者はもう常連になってしまった島に降り立った。

すでに魔物たちとは仲良しになって、島に行くのが楽しみにすらなっている。


「あ、勇者さま、どうされたんですか?」


「今まで黙っていたんだが、実は俺は君たちを倒す依頼を受けていたんだ」


「そんな……! それじゃ私達は……!?」


「もちろんそんなことはさせない。

 だから、俺に倒されたことにしてこっそりこの島を出てくれないか?」


「えっ?」


「そうすれば島から魔物はいなくなる。

 俺も倒したことにできるし、君たちも無事でいられる。

 村の人達は魔物が消えたと大喜び。完璧だろう?」


「それは……それはできません……」

「どうして!?」


「私達はなにも好き好んでこの島にいるのではありません。

 みな、呪いをかけられてこの島に囚われているのです」


「なんだって……!?」


「この島の空の上にある宮殿に、私達に呪いをかけた魔族がいるのです。

 彼らがいるかぎり私達はここから出ることができないのです」


勇者ははじめて感じる激情に体が震えた。


「許すまじ魔族め……! 俺がそいつら全員をぶっ倒してくる!!」


「本当ですか勇者さま」


「もちろんだとも。そして君たちをこの島から解放してみせる!」


魔族に対する激しい怒りを力に変えた勇者はますます強くなる。

もはやどんな敵でも負けないほどの力を手に入れた。


「覚悟しろ! 魔族ども!!」


勇者は空へと飛んで魔族のいる空中宮殿へと向かった。

そこには大量の魔族たちが待ち構えていた。


「さあ来たぞ魔族ども! 一匹残らず……」


剣を構えた勇者だったが、魔族たちの目にさらされて声が途切れた。

魔族の一匹が怯えた声で鳴く。


「きゅ~~ん」




「きゃわわわわわいぃぃぃ~~~~!!!」


子猫のような見た目の魔族を見て、勇者は再びなにもできなくなった。

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