第122話 反省と成長と


「レベル上げはもちろんだけど、訓練も別に必要だと思うんだよ。あ、ベリーソース取ってくれ」

「ルイ君の言うことに間違いは無いんだろうけど、どうして?はい、どうぞ」

「お、ありがと。確かにレベルが上がれば強くはなれる。スキルも覚えるしな。けど、武器とか盾の基本的な型は練習しといた方が良いし、普段の戦闘では使わないけど、ここぞという時には使うっていう動きもあるからな。そういう…あ、これ美味いな。そういう動きが咄嗟に出るかどうかは、どんだけ練習したかが大切になってくるんだよ」

「美味しいでしょう?キジは滅多に獲れないからね。あたしだって数えるほどしか…ってちょっとルイ!?ソースかけすぎよ!!」


 アーティの件は不幸な事故だったわけだが。街中で再び出会ったら大変なので、騒動からほどなくしてすぐにフェムを出た。山越えルートの山中で野営して一泊。翌日の昼過ぎにトルヴに到着。大浴場で汗を流して部屋に戻ってゆっくり疲れを癒して。今は集会所の酒場で晩御飯だ。


 集会所の食事はジビエが多いわけではないが、今日はキジが獲れたからルイ達にと、猟師さんたちが他の獲物と一緒にわざわざ持ってきてくれたらしい。感謝感謝。


 相変わらず豪快な料理が多いのだが、山鳥の丸焼きが唐揚げのような扱いで大皿に盛られてくる…。人数が多いから何とかなってるけど、一人だったらこれ一皿で撃沈してるところだ。なおエリエルだけではなくレナエルも異次元胃袋の持ち主だった。レヴィはそれほどではないが、シャロレもゆっくりだが意外と、というかかなり食べる方だ。


「パーティを組んだ一番のメリットは、大皿をシェアして色んな料理が食べられることじゃなかろうか」

「確かにあれこれ食べられるのは嬉しいけど、一番のメリットって言われるとあたしたちの決意が食欲に負けたみたいで微妙ね…」


 アーティがこの村まで追ってくる可能性もあるが、その時はその時だろう。慌ててフェムを出てきたせいで、またもスイーツを食べそこねた天使がどんよりしていたけど。


 それは良いとして、訓練だ。トルヴでレベル上げすることを決めてはいたが、レヴィもシャロレも新しい武器でいきなりの戦闘は無理がある。レベル上げと並行して、それぞれ一定の型を訓練しておいた方が上達も早いだろう。


 予定ではこの冬はトルヴで過ごし、春になったら旅立つつもりだから3~4ヵ月といったところだろうか。冒険者になりたてのレヴィとシャロレをそれなりに育てるなら、時間は、あるようで無い。


 目標はLv20から30。訓練でランスと盾、斧、それぞれの基本的な扱いに慣れながら、並行してオークとの実戦でレベル上げをして、最終的にはハーピーを一人で楽に倒せるくらいの実力を身に付ける感じだろうか。俺の方はハーピーではレベル上げにならないだろうから、2人をサポートしながら加工修行に精を出すことにしよう。


「あのっ!夕飯時にすみません!」

「ん?あれ?トラス?こんな時間にどうしたんだ?」

「ルイさんたちが帰ってきたって聞いて。…改めて謝りに来ました。本当に、すいませんでした!」


 俺たちのテーブルの横に立ったまま、深々と頭を下げて謝るトラス。突然のことで驚いたけど、終わったことだし気にすんな、と笑いかけて席を勧める。


「親父とお袋に散々叱られました。あとディアナにも」

「そりゃ、ね。あなた、それだけみんなに心配かけたんだもの」

「はい。お前がしたことは猟師が絶対にしちゃなんねぇことだって。自らの身をいたずらに危険にさらして、御山を汚すとこだったって。俺は…もちろん、危ないなんて思ってなかったんだけど、今は馬鹿なことしたんだって分かったつもりです。村のみんなに謝りに行って…あ、レヴィさんも、ありがとうございました」

「レヴィさん…慣れないわね。まぁいいけど。でも本当に何であんな無茶を?」


 トラスは少し身をすくめて言い淀んだ。けれど、ある程度覚悟はしてきたのだろう。顔を上げ、姿勢を正して話を続ける。


「色々です。色々。みなさんの身体が小さい事を馬鹿にしてたし、そんなみなさんを頼る親父たちにも腹が立ったし、だからといって一人でオークを倒せない自分も許せなかったし。その他にも、色々。大人たちは ”ルイなら出来る” ”お前には無理だ” ”そういうものだ” って言うけど、俺は納得できなかった。だから、俺にもできるんだって見せつけてやりたかったんです」

「お前には無理だ、そういうものだ、かぁ。ま、あなたの気持ちは分かるけどね…痛いほど」

「ふふふ」


 顔を赤くして視線をそらすレヴィを、シャロレが微笑ましそうに見ている。騎士を目指していた頃の自分を重ねてしまうんだろうけど、まぁ誰しも通る道だよね。反発したり、挫折したり。


 そんな経験が一切ない人ってのも世の中にはいるのかもしれないけど、少なくともトラス君は今回のことで大きく成長できたんじゃないかと思う。最初は将来が不安な子だなって印象だったけど、ちゃんと反省した今は少しだけ大人びて見える。


「でも今は、自分にできること、自分がすべきこと、少し分かった気がします。当分は罰として入山も禁止されましたけど、明けたら見習いが取れるように、しっかり猟師としての修行をして。それからそのまま猟師になるか、ルイさんみたいな冒険者になるか、考えたいと思います」

「え!?トラス君、冒険者になるの?」

「まだ決めてませんけどね。この村は普段は平和ですからギルドもありませんし、日常的に常駐している冒険者がいないんです。今回みたいなことは滅多にねぇんだけどなって親父も首をかしげてましたけど、同じようなことがまた起きないとも限りませんから」

「ルイ…またですか?」

「ん?何が ”また” なんだレナエル?」

「また地元民が冒険者に…ハァ。何でもありません」


「…?けどエラいじゃないか!ちゃんと将来のこと、考えてるんだな。猟師になるか、俺みたいな立派な冒険者になるかはゆっくり考えたらいいと思うけど、どっちを選ぶにしても応援するぞ」

「ルイ?目つぶしして、急所攻撃して、逃げてくるような冒険者はとてもじゃないけど立派とは…」

「トラス、腹減ってるだろ?山鳥の丸焼き食うか?」

「あ、いただきます。飯抜きだったんで実は腹ペコで。うわ!?キジ!」


 自分のことだけじゃなく村のことも考えて将来を決めようとしているトラス君は立派だと思う。そんなトラス少年の夢を壊すようなことを言うのは、とても悪いことだ。そもそもエリエルは相変わらず言葉の選び方が良くない。あれは意表を突いた頭脳戦から偶然をも味方にした完璧な撤退戦なのだ。あとでちゃんと言い聞かせておかなければなるまい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る