第123話 訓練、開始!


「それじゃ、訓練始めるぞ!」

「「「はい!」」」


 訓練初日。村のすぐそばに少し開けた場所があったので村長に確認したところ、ちょっとした資材置き場として使われている場所だと判明。不意にオークが現れるような危険も無いから、訓練場所として使っても構わないと言われ、お言葉に甘えることにした。


 わずかに残されていた資材類を端の方に寄せるなどして片付けて、広場的なスペースを確保。ゆくゆくは何かしら設備を充実させたいところだが、今は良いだろう。


 レヴィはストレートの金髪をポニーテールにくくっていて、シャロレはふんわりした黒髪を横から後ろへと編み込んで流している。全員鎧などの防具は着こんでおらず、空けたスペースの中央にレヴィ達が座り込み、俺が立って話し始めたのだが…何だか学校の体育の時間を思い出した。


「早速だけど、レヴィはまず、盾の扱いを覚えてくれ」

「え?何で?確かにあたしはガーディアンになったけど、ランスの方が難しそうだし、早くたくさん練習した方が良いんじゃないの?」

「ふむ。俺も杖術訓練のガード方法で学んだ知識だけだけど…ちょっと試してみようか?」


 レヴィに立ち上がるよう促して盾を構えてもらい、俺の攻撃を受けてもらう。せっかく買った装備品が訓練で消耗したらもったいないので、レヴィが装備しているのは俺が即席で作った木の盾だ。俺も適当な太さの棒で充分に手加減して…殴る!


(ドンッ!)

「きゃあっ!?」


 俺の攻撃を正面から受け止めたレヴィは、軽くノックバックして体勢を崩した。


「大丈夫そうか?じゃ、次も同じように攻撃するから、今度はさっきより少し斜めに構えてくれ」

「びっくりした…。ルイって見た目はそんなに強そうじゃないけど、やっぱり冒険者なのね」

「微妙に誉め言葉になってないって気づいて?」

「ごめんごめん。こうかしら?」


 さっきと同じ打点、同じ強さを心がけて…殴る。


(バシィ!)

「くっ!?…あれ?・・・あ!そういうことね!」

「気づいたか?盾は受け止める使い方も時には必要なんだけど、基本は受け流した方が良いらしい。正面から相手の力を受け止めると盾の負担も大きいし、そのまま自分にダメージが伝わることになる。けど、受け流すように使えば敵の攻撃をそらすことができて、ダメージも少なくなるってわけだ」

「ちょっと考えたら分かることなのに、ね」

「これ以外にも、盾を使う上でのコツがあるはずだけど、戦闘でいきなり試す前に訓練しといた方がいいだろ?まずは色々試してみようぜ」


 上段、中段、下段。打撃、斬撃、刺突。様々な攻撃を受け止めたり受け流したりする練習をしてもらう。オークなら何匹も戦ってきたし、攻撃パターンもある程度覚えている。俺がそれを再現して、レヴィに防御してもらうことで仕上げにしようか。


「ん。でも、ランスは良いの?」

「もちろんランスも訓練するし、片手と両手の違いはあるけど俺も槍は少し分かるから、教えるよ。けど、レヴィはパーティの盾職だ。レヴィが敵のヘイトを集めて、攻撃を引き受けて、その間にシャロレがアタッカーとして攻撃を担当するのがウチのチームの基本になる。役割分担から言っても、盾優先で訓練しといてほしい」

「分かったわ、リーダー」


「で、シャロレだけど」

「うん。斧での攻撃を教えてくれるんだよね?」

「俺も最初の1年間は防御しか教えてもらえなかったし、本当は安全第一で回避とか防御から訓練したいとこだけどな。まぁ安全が確認できるまでは俺が回復役として二人に付くから、シャロレは攻撃メインで訓練するとしようか」

「1年間防御だけ!?普通はそうなの?」

「他と比べたことが無いから分からないけど?中途半端に攻撃を意識したら防御の修行が疎かになるからって言ってたぞ」


 バルバラは最初の1年間、決して攻撃を教えなかった。言うことを聞かずに俺が持っている杖で反撃しようとした瞬間、瞳が怪しく光り、普段の三倍くらいのスピードと威力がある杖で打ちのめされるのだ。たぶんヤツはターンごとに属性が変化していくタイプで、正解以外の属性で攻撃した瞬間こちらが全滅するレベルの瀕死攻撃を放ってくるとか、そういう感じのボスなんだと思う。


「きっと、ルイ君が危険な目に遭わないように、防御を優先して教えてくれたんだろうね」

「ボッコボコにされて、何回か死にかけたけどな。ギリギリのところでヒールかけてくるんだよ、あの婆」

「…私は…ううん。大丈夫。ちゃんと我慢できるよ!」

「ルイ?確かにシャロレは何でもルイの言うことを聞くけど…」

「女性に暴力を振るうのは最低です」

「いや、そこまではしないぞ!?急に湧いて人聞きの悪いことを言うんじゃないエリレナ!あとシャロレも嬉しそうに受け入れようとしないで!?」


 もちろん命がかかってるんだから半端な訓練をするつもりはないけど、訓練で大怪我をするのは本末転倒だ。俺自身はバルバラの訓練も楽しかったし感謝してるけど、みんなにはみんなに合った訓練があるだろうし。せっかくだから楽しめるような工夫をしてあげたいところだけど、何かないかな。


「ルイさん、俺は?」

「あぁ、トラスは、そうだな…」


 訓練にはトラスも参加していた。謝りに来た晩飯の時に俺たちの話を聞いていたトラスは、せっかくだから俺も参加したいと言い出した。集会所の配膳で回っていた村長さんの奥さんが聞きつけてその場で拳骨を落としていたが、その日の晩に村長と奥さんを説得したらしい。


 結果、猟師見習いとしての生活に支障をきたさない範囲で許可が下りたのだが、俺のところに話が来る頃にはなぜかディアナとクレスも時々参加することになっていた。断る理由も無いし、賑やかなのはいいことだと受け入れたけど。


「罠猟で手槍を使うんだろ?レヴィの盾は攻撃してもらわないと訓練にならないから、少し相手をしてもらって良いか?その合間に、俺がトラスにも槍を教えるよ」

「はい!レヴィさん、よろしくお願いします」

「ありがと。あたしも一応元猟師だから、弓を少し教えてあげるわね」

「シャロレはこっちだ。縦振り、横振り、カチ上げの素振りから始めよう。斧とハンマーでは刃の有る無しの違いはあるけど、重心の移動とかコツは共通するところが多いから。ある程度できるようになったら横木とか立木を打って感触を確かめてみよう」


 オークサイズの木人とか、漫画とかで見かけるような、攻撃練習のための的がたくさんぶら下がった設備でも作ってみようかな?加工所の手伝いもやっと行けるようになるけど、レヴィとシャロレには広場での訓練だけじゃなく、魔物との実戦経験を積んでもらう必要もあるし。…忙しくなりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る