第95話 トルヴの集会所


「あたしの村にも数人は居たけどね。こんなにたくさんのハーフジャイアントを見たのは初めてよ」

「建物とか、何か大きいなーって感じたのは、遠近感のせいじゃなかったのか…」


 村を行き交う人々は男女問わず、平均してだいたい俺の身長の2倍くらい。ジャイアントっていっても魔物的な特徴はない。体格がしっかりした人は多いが、おおむね単に大きな人って感じだ。


 服装は普通にズボンとシャツの人が多いけど、山間の村らしく、毛皮のベストみたいなのを身に着けてる人も結構多い。時々見かける比較的小さい人は外部の人なのか、年齢的に若い人なのか微妙なところだ。


「っふふ、すごいな!小人になった気分だ。まずは飯食おうぜ、飯。どっか食堂ないかなー」

「デザート!デザートあるとこ!」

「ちょっとルイ!エリエルまで!」

「レヴィ、ルイさん行っちゃった…」

「もう!依頼はどうするのよ!」


 はぐれた二人をピックアップしに戻ったら、何故かレヴィがぷりぷり怒っていた。”分かるわー、お腹すいてたらイライラするよな?” って言ったら更に怒られた。納得がいかない。


 ナイフとフォークが交差した、お決まりの絵の看板で食堂を発見。入口に立てかけられた本日のお奨めメニューはハンバーグ。山間の村っていう勝手なイメージでジビエが名物かなと思ってたけど、どうやらフェムから流れてくる転生者の流行を取り入れてるみたい。


 もちろん、この村の猟師が狩ってきたイノシシやシカなども供されるとのこと。だけどそれはまたの機会のお楽しみにして、今日はみんなでお奨めを注文。久しぶりの肉らしい肉だ!ワクワクしながら待つことしばし。


「うおぉ!」

「うそぉ!?」

「えぇ!?」

「わぁ…」


 運ばれてきた料理を見て驚愕した。デカぃ!ここの人たちのサイズを考えたら食事もこうなるんだろうけど、俺の顔くらいの大きさはありそうなハンバーグだ!


 付け合わせの野菜なども切り方の問題じゃなく、元のサイズが大きい品種のように思える。笑ってしまいそうな見た目だが、どれもめちゃくちゃ美味そうだ。


 ほんのり焦げてじわじわと鳴る音が食欲をそそる。切り分ければお約束の肉汁がじゅわりとあふれでて、断面からは温かな湯気と共に空きっ腹の胃袋を直撃する香りが立ち込める。ひとかけら口に放り込むと広がる甘さは肉のものか玉ねぎのものなのか。柔らかな歯ざわりにも関わらず、一噛みごとにうま味が、うま味が!


「おぉぉぅ」

「うぉぉぉ」

「あんたたち…」

「ふふふ…」


 あまりの美味さに震える俺とエリエルを見てレヴィが微妙な顔をしている。俺とエリエルで似たようなリアクションをしてるとは思うが、呆れるほどじゃない…はず?それよりも。


「うんまい!」

「ぉ美味ひい!」

「ひゃっ!?」

「きゃっ!?」


 やー、美味いなこれ。肉も美味いけどソースも美味い。今まで食べたハンバーグの中でもかなり上位の…ん?何でレヴィはぷるぷる震えてんだ?あ、やっぱそうか。


「分かるわー。あんまりにも美味いもの食った時って、思わず震えるよな?」

「急に大声出したら、びっくりするじゃないの!しかもテーブルにちょっと飛んだわよ!」


 怒られた。


 ちゃんと飲み込んでから感想を言ったはずなのだが。おや?シャロレがハンカチを手にしてこちらを見てい…あ、口元?ごめんなさい。


 二口目以降は普通に?食事を続けた。ちゃんと気を付けて食事する俺たちの様子にレヴィもすぐ機嫌を直してくれて、和やかに食事は続く。


 何とか食べきったと思ったのだが、巨大なブドウが "食後の口直しだよ" という店員さんの一言と共にテーブルにドンと置かれ、みんなで撃沈した。


 ・・・


 ちょっとありえない大きさに膨れた腹をさすりつつ、食堂の店員さんに村長さんの居所を尋ねたら、村の集会所に居ることが多いとのこと。


 集会所は酒場も兼ねていて、普段は村人たちが問題を話し合ったり、ちょっとした宴会をしたりといった用途で使用されている。ただ、この村もトヴォと同じく宿屋が無いため、外から来た人は集会所に併設された宿泊施設を利用しているそうな。


 食事中にそれとなくレヴィとシャロレに今後の予定を尋ねたところ、今日はトルヴに宿泊し、明日出発することにしたみたい。なので、4人で集会所へ向かう。


 集会所は村のちょうど中央付近に位置していた。他の建物と比べても更に一回り大きかったので、見た目ですぐに判った。この辺りの冬は雪深いのだろうか、他の建物もそうだが屋根の勾配が急だ。そのため必然的に屋根の面積も大きくなりがちなのだが、この集会所は特に大屋根と呼んでも良さそうなほどの存在感がある。


 入ってみると、中は酒場併設型のギルドに近い雰囲気だった。丸テーブルと椅子が並んだ酒場の横に、床から一段高い板の間がある。広々としたスペースの所々に、村人と思われる大きな人が胡坐をかいて座り、それぞれ何かの作業をしていた。


「へー。変わった雰囲気だねぇ。酒場なのか作業場なのか、分かんないね」

「メインは集会所だから、ちょっとした打ち合わせから大人数の集会まで対応できるような造りなんだろうけどな。それにしても、天井が高いしテーブルも椅子もでっかいなー」


 さっきの食堂もそうだったのだが、一つ一つの家具が大きめで、天井や奥行きなどの空間もかなり広めにとってある。確かに、俺たちサイズの家とか家具とかだったら村の人たちには窮屈だろうしな。


 辺りをきょろきょろと見回してみるが、さすがに誰が村長さんかは分からない。仕方ないから酒場のカウンターの女性に…ってカウンターもデカいな。見事な一枚板で、磨き上げられた表面は少し濃い色合いなのにツヤツヤと光っている。


「すみません。こちらにトルヴ村の村長さんはおられますか?」

「ん?おや、かわいらしいお客さんだね。村長ならほら、そこで作業してるのがそうだよ」


 カウンターの女性は少し細身ながらも長身で、なおかつがっしりした体格。トップアスリートと言われても信じてしまいそうな、肩回りから腕にかけてのほどよい筋肉がとても羨ましい。うつむき加減だったため俺が声をかけるまで気づかなかったらしく、少し驚いた様子で俺を見たあと、小さく微笑みながら一人の男性を指差した。


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