第94話 木材と加工の村 トルヴ


 二人に出会ってから3日目。全員徒歩なので、ルカに乗って単騎で移動してる時よりも移動速度は落ちている。だけど、トヴォの村長から聞いた道のりから、トルヴには今日明日にでも到着できそうな感じだ。


 旅路は順調。道中、時々現れるオークは1~2匹で、余裕で対応できている。5匹に突然囲まれるなんて、彼女たちはよっぽど運が悪かったのだろうか?ハンマーでサクッと倒しても良いのだが、基本的には俺が前衛でけん制している間に、二人に弓で攻撃してもらうようにしている。二人のこの先を見据えての訓練のつもりだ。


 二人ともさすがの腕前で狙いは外さないのだが、弓は一撃の攻撃力が高いわけじゃないので手数が必要になる。やはり戦闘系の職業じゃないとステータスの恩恵やスキルが無いせいか大変そうだ。けど逆に、その状態でここまで二人で旅してこれたのがすごいと言えるのかも?身体能力というかポテンシャルが高いんだろうか。


そんなわけで、適度に戦闘したり、あれこれ話をしたり、気になったものを見つけたら立ち止まったり、のんびりと旅路は進んでいく。


「お?アケビじゃないか。こっちは…コケモモか?」

「え?何なに?食べれるの、この実?赤くて小さくて可愛いー!(プチ、パクッ)」

「あ、エリエルちゃん…」

「っ!?すぅっぱぁぁぁああああーーーーぅあぃ!!!」

「その実…酸っぱいよ?」


「早やぅ言っぇぉぅぉ…」

「だからお前は勝手に拾い食いをするなと、あれほど…」

「ジャムにすると美味しいのよね。少し摘んでいきましょうか…けどあたし、こっちは知らないわ。アケビ?」

「あぁ。コケモモよりは、もう少し暖かいとこに生えてるイメージなんだけど、たぶん間違いないだろ。ほんのり甘くて美味いぞ」


 野山を駆け回ってカブトクワガタを獲って遊ぶ季節が過ぎたくらいの時期に、熟して割れた実を見つけては食べてたものだ。…今思えば、よくお腹壊さなかったな。


「レヴィ、騙されちゃダメよ!こんな毒々しい紫色の実が食べられるわけ無いんだから!」

「お前・・・たった今、赤くて可愛いとかって、見た目に騙されてなかったか?まあ皮の部分も食えないことはないんだが、すぐに食えるのは中の白いとこだぞ?」

「えぇえ?何か、ねちょってしてるよ?黒いつぶつぶも気持ち悪いし…って、シャロレ!?」


 騒ぐエリエルの横から全く疑う様子も見せず、シャロレが手を伸ばす。アケビを手に取り、そのまま口元へ。俺が教えた通り、白い果肉の部分を口に含んだ。


「あ…甘いです。うん、美味しい」

「ふぅん?あたしも…あ、本当だ」

「嘘!?私も私も!…わぁ、ほんのり甘いねぇ」

「んだろ?あむ…うん、懐かしいな。店で見かけることもなかったから本当に久しぶりだ。種はペッてしろよー?」

「スイカと一緒ね?なら大丈夫。ワウミィに、おへそを押さえておけば芽は出ないって習ったから」

「ワウミィ…」


 ワウミィには後から冗談だって教えたはずなんだが、上手く伝わらなかったのか?自信満々でヘソを押さえながら種を吹き出すエリエルを見て、他の二人も真似をし始めてしまった。これ、今から訂正するの大変そうなんだが…ま、また今度でいいか。


「それにしても、この見た目の食べ物を最初に口にしちゃうの、シャロレ、勇気あるね?」

「ルイさんが美味しいよって言ったから。ほら、昨日の木の実も美味しかったし」

「あぁ、シイノミとギンナンね。まさか、どんぐり食べさせられるとは思わなかったわ」


 正確にはどんぐりではないのだが。先日、どんぐりと一緒に椎の実が落ちているのに気づき、拾っておいたのだ。どんぐり食べるの?ってレヴィには不思議そうな顔をされたし、シャロレとエリエルも怪訝そうな顔をしていた。


 それと、別の場所では銀杏も発見したので、これもついでに拾っておいた。下処理の段階で凄まじい匂いを発していたため3人には大変不評だった…のだが。


 夕食後、時間をかけて香ばしく炒り上げた椎の実と、塩を敷いた別の鍋でこちらもじっくりと炒った銀杏を奨めたところ、大変ご好評をいただいた次第である。キノコとかもそうだけど、秋は山の幸が美味しいよね。


「種の中身まで食べるなんて、転生者って食い意地がはってるのね」

「食文化が豊かだと…あ。んー、銀杏はまだしも、アケビとか椎の実は転生者でもみんながみんなは、食べないかもな」

「なーんだ、じゃ、やっぱりルイが食い意地がはってるだけじゃん」

「エリエルにだけは言われたくないわ。まぁ旬のもの、季節のものを食べるのが好きなのは否定しないけどな。それぞれの時季に旬の食べ物を食べれたら、一年中、美味しいとこどりだろ?」

「あんた、やっぱりちょっと変わってるわね」


 そんな寄り道を繰り返しながら進んでいると、徐々に道沿いの景色が変わってきた。


 少しだけ圧迫感を感じる程度に左右から枝を伸ばしていた道沿いの木々が、徐々にその間隔を広げていく。木々の間に細く見えていた空が、道を進むにつれて徐々に広がり、森の道がやや明るさを増していく。道沿いにぽつり、ぽつりと比較的新しい切り株が見つかるようになったころ、街道から見下ろすような形でトルヴ村が見えてきた。


 山合の森に埋もれるように現れたトルヴは、トヴォよりも大きいがエンよりは小さいくらい。俺の身長の3倍くらいの高さの、丸太や板を組み上げたような外壁に囲まれて、一部には土を盛った土塁が見られる。


 それらをぐるりと取り巻くように空堀が掘られており、街の入口には、これも木造の小さな跳ね橋が見える。しかし出入りを確認する衛兵的な人は居ないようだ。


「………んんっ!良い!木々に囲まれてる感じとか、他所では見ないような木造の壁の雰囲気とかが、いかにも木材で有名な村です!って感じでワクワクするな!」

「村の周囲の壁と堀は、たぶん獣除けだと思います。でも、なんで街の周りの木々を間引いてないのかな?」

「雰囲気づくりじゃないか?」

「そんなわけないでしょう!?きっと何か理由があるに決まってるじゃない」


 そんなことを話しながら近づき、村へと入る。トヴォと同じく地元の人からどんな反応があるか分からないので、ルカは別次元で休憩だ。もちろん寂しくないように、散々撫でまわしてからの送還である。なお、ここ数日で少しだけルカと仲良くなったレヴィとシャロレも、撫で繰り回しに参加していた。


 橋を渡り、門をくぐる。視界に広がる街の様子は意外さ半分、だけどしっかり期待通りだった。


 目に映るほとんどの建物が木造。柱などの主要な構造だけが木という意味での木造ではなく、外観のほとんどが木で、丸太そのまま、あるいは板にしてから重ねたような屋根や壁をしている。いわゆるログハウスのような雰囲気のものばかりだ。


 そんな建物が隙間なくみっちりと並んでいるというわけではなく、各所に庭のような作業場のようなスペースを適度に挟みつつ、少しゆとりをもって道沿いに立ち並んでいる。


 建物だけではない。道沿いから家や作業場を隔てる木の柵や、建物の周囲に敷き詰められたウッドチップ、跳ね橋の機構にも木製の部品が使われていたりするなど、とにかく視界に木が多い。


 しかも、縦や横だけではなく斜めに張り合わせた木の板で作られた壁があったり、高さがバラバラな木で柵ができていたりと、機能性だけではなく遊び心も感じさせる。どこかアトラクションのような少し現実離れした景観は、まるで積み木の街のようだ。


「かわいい!おもちゃの街みたい!…なん…だけど…」


 エリエル。言いたいことは分かる。分かるぞ。石造りのような重厚さを感じさせない、木をふんだんに使った街並みは、かわいいというか、おしゃれというか。そんな素敵な景観なのだが…。建物にも、行き交う人々にも、距離感がおかしくなってしまったかのような、何とも言えない違和感があるのだ。


 困惑している俺とエリエルに、レヴィがつぶやくように答えを出してくれた。


「ハーフ…ジャイアント?」

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