第62話 トヴォ村に到着


 バクチョウさんに出会った場所からトヴォ村への2日間。人と会うことが無かった代わりに、川の中から魚人系モンスターのサハギンが結構な頻度で現れた。おかげで、ホーン・ギルの経験値と合わせてレベルは15まで上がり、ハンマースキルのパリィを覚えた。


 パリィは武器で敵の攻撃を弾いたり受け流したりする技術だが、ゲームでは剣の技として登場することが多い。ハンマーでのパリィがどう発動するか疑問だったが、打面やヘッドの横の部分などを使って、弾いたり受け流したりすることができた。割と応用が利きそうだし、防御系の技は重要だ。積極的に習熟していこう。


 サハギンの多くは銛を手にしていた。オークの槍もそうだったのだが、ハンマーで戦うには向こうの方がリーチが長い。そのため、まずは攻撃してきた相手の穂先をかわしてから懐に飛び込む感じで戦ってみた。


 慣れてからは銛の軌道を予測して、その動きを阻害するように先手を取ってハンマーを操るようにした。攻撃を食らいそうになったらパリィを発動して弾く。スタンダードな剣など、他の武器を相手にする場合も多分そうだろうけど、ハンマーはリーチの不利を覆す動きが課題だな。精進精進。


 徐々に広がる川幅。流れもゆっくりになってきて、山間だったのが徐々に木々の数も少なくなって視界が開けてきた。変わりゆく景色と戦闘を楽しみながら、ほんのり潮の香りが漂ってきたころ、遠くにぽつりぽつりと建物が見えるようになった。


「見えた!あれじゃない?トヴォ村」

「やー、やっと着いたな」


 さらに進むと河口付近に到着、その河口に寄り添うようにトヴォ村があった。村に外壁は無く、エンやヌルに比べても建物の数が少ない。浜辺には幾艘かの舟があり、網が広げてあったり、干物台があったりと、いかにも漁村という雰囲気だ。ここで間違いないだろう。


「ねぇ、ルイ?」

「うん。まあ、そうだよな」


 どんな反応があるか分からないから、ルカには別世界に退避してもらう。そうしてエリエルと村に入ってみたが、行き交う人がジロジロと。話しかけてこないけど、表情からも明らかに歓迎されてない雰囲気。


 …これはバクチョウさんに状況を聞いてなかったら、ちょっとツラかったかもしれない。食堂らしきものがあったので、入ってみることにした。


「いらっしゃ…何か用事かい?」

「食事はできますか?」

「…適当なところに座んな」


 恰幅の良いおばちゃんの対応は、笑顔から無愛想への急降下が顔芸のようだった。気にしない気にしない。粗い造りの木の椅子とテーブルに座り、メニューを見ると和風だ!コメ万歳!村を行き交う人たちの服装が麻や木綿の着物に近い感じで、腰帯やふんどし姿の人までいた。日本の昔話風だったから薄っすら期待はしてたんだ、よしよし。


 その日に揚がった魚次第のようだが、日替わり定食があったので頼んだ。なおエリエルはお刺身5種盛り定食。


「はいよ。食ったら帰りな」

「ありがとうございます」


 お礼を言ったら、奇妙なものを見るような顔をされた。実は入店拒否されたらどうしよう、などとコッソリ不安になっていたのだ。ここまで来ておあずけされた日には、エリエルじゃなくても暴れるところだ。塩対応なんて全く気にならないし、ご飯が出てくれば、ありがとうである。


「「いただきます」」


 ホカホカと湯気を上げるお米様がまぶしい。おかずはアジフライ!キツネ色にカラッと揚がり、端が少し焦げて茶色くなっているのもまた美しい。ザクッとかじればジワッとあふれる。アジのうま味が口の中に広がる!あぁ、美味い…。


 味噌汁には海苔が入っていた。お米だけでも美味い、味噌汁だけでも美味い。お米を口に含み、すぐに味噌汁を口に含めば、新しい出会いに完敗だ。あれ…涙が。


「ルイ、ルイ!お刺身が、美味しい!お刺身が美味しいよぉー」

「あぁ、あぁ、美味いな。良かったな」


 エリエルは既に泣いていた。食堂内には他に村人も数人いたが、泣きながら飯を食う俺たちに複雑な表情を浮かべていた。泣くほどかと思われているんだろうけど、こちとらこれを目当てに7日間の旅をしてきたのだ。しかも最後の2日間は食べれないかもしれないという不安にさいなまれながら。


 それが美味しいご飯で報われたのだから喜びはいかばかりかというところである。アジフライ一口と刺身一切れを交換して、また喜び合う。刺身も肉厚で、淡泊に思える白身の刺身も濃厚な味わいだった。お米様一粒も残さず、完食。


「「ごちそうさまでした」」


 久しぶりの和食に大満足して席を立ち、やや困惑気味のおばちゃんに支払いを済ませる。ついでに宿を聞いてみたが、この村には宿は無いとのこと。ちょっと予想はしていたけど、仕方がないので海辺にテントでも張るとしようか。


「これからどうするの?」

「そうだなー。とりあえずあの食堂のメニューは制覇するとして、だ」

「確かに美味しかったし、他のもある程度は食べたいけど、毎日お魚は飽きちゃうんじゃない?」

「そんなことは無いぞ?素材は同じでも料理法は無限だ。和風だけじゃなくて中華風、洋風にしてみたり、肉っぽくしたりサラダっぽくしたりすれば飽きないさ」


 とはいえ、だ。他に楽しみといえば海釣りくらいのものだろうし、村の雰囲気がこれでは、あまり長期滞在はできそうにないかもしれない。気分的に。情報収集して早めに次の目的地を検討しとかなきゃだな。”おっ肉~おっ肉~” と歌い始めたエリエルを引き連れて村内から海の方へ。昼飯食い終わって満腹状態なのに、よくそんな歌を歌えるな?


 途中の商店で少しの米と味噌、醤油などの食料、調味料をゲットした。初めて出会う調味料とはいえ、たくさん買うと村のみなさんに迷惑だろうと思ったので分量はかなり遠慮しておいた。するとここでも塩対応の店員さんが、拍子抜けしたような表情を浮かべていた。どうしたんだろね。


 浜辺に到着。波打ち際から覗いてみると、この辺りは遠浅のようだ。砂浜の奥には磯もあり、色々と楽しめそう。漁村だから誰かいるかなと思っていたが、付近には漁師の姿も無い。舟があったし、浜辺での漁はしていないのかな?


 潮の満ち引きを考えて、少し陸寄りにテントを設置。長旅で疲れたし、お腹もいっぱいだし、寄せては引く波の音を聞きながら、ちょっと休憩することにしよう。

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