第61話 生産系冒険者とトヴォ村の様子
翌朝。少しお酒が残っている様子のバクチョウさんには温かいお茶と高級ハチミツを一さじ。お茶はビタミンCも豊富で、二日酔いの改善に効果があると言われている。ハチミツも頭痛を抑えて、肝臓にも良い。こんな朝にぴったりのお供だ。”お茶まで美味しく淹れられるんだね” と力なく笑って感謝された。
「聞きそびれてたけど、これからどこへ向かうんだい?」
「トヴォ村です。魚が美味しいと聞いて」
「トヴォかー。ちょうど僕も通ってきたところだけど、あそこはなぁ…」
「何か問題があるんですか?」
「問題というほどでもないんだけどね。村人たちが排他的というか何というか、転生者に冷たいんだよ。教会が無いから拠点にするのにも不向きだし。何より小規模な漁村だからか冒険者ギルドが無い、村人が冷たいから個人依頼も無い、つまりクエストが発生しないんだ。まあ余程の物好きじゃないと行かない村だね」
「…あらら」
「ルイ!大漁祭りは!?私のウニは!?」
エリエルが大騒ぎし始めた。気持ちは分からんでもないが、さてどうしよう。考え込んだ俺と涙目になっているエリエルに同情してか、バクチョウさんが続ける。
「いや、急に村人が襲い掛かってくるわけでもないし、確かに魚は美味しいよ。食堂の利用も可能だから、行くだけ行ってみたらどうかな。僕は数年前も訪れたことがあるんだけど、その時は今ほどじゃ無かったんだけどね。むしろ僕がこんなだから、釣りをきっかけに色々教えてくれたりもして。根は悪い人たちじゃないはずなんだよ。でもこの前通った時は、さらに余所余所しくなっててね、何があったのか聞いても教えてくれなかったなぁ」
ふむ。行ってみないと様子は分からないけど、今さら戻るなんて選択肢も無いし、そう考えたら迷うことは無いか。
「ありがとうございます。せっかくここまで来たんだし、行ってみることにしますよ」
「えぇー!?エンに戻ってエットに行ってもいいんじゃない?」
「せっかくここまで来たんだ。戻るにしても、美味い魚介類を食ってからでいいんじゃないか?」
「んー、雰囲気の悪い村とかヤだなぁ」
「…お刺身、煮魚、焼き魚!」
「イッカ刺っし、タッコ刺っし、エッビとカニィ!」
「「鯛やヒラメも舞い踊る!」」
「な?」
「しょうがないなぁ」
「君たち、ちょっと変わってるね…」
苦笑いしているバクチョウさん。あなたも充分変わってると思いますよ?
・・・
朝食を終え、テントなどを引き払う。
「ありがとうございました。色々と教えていただいて、助かりました」
「いや、こちらこそ。久しぶりに楽しい一時を過ごすことができたよ。ありがとう。僕はあちこちをふらふらしてるから、またどこかで会えると思う。その時は、また一緒に釣ろうね」
握手して、お別れだ。別れ際にバクチョウさんから追加で、川沿いにホーン・ギル以外にも魚人系のモンスターが現れるから油断しないようにということ、ここからトヴォまでは馬で2日間ほどの距離であること、などの助言をもらう。
さらには料理とお茶のお礼にと、海釣り用の竿や仕掛けをもらった。悪いですよと辞退しようとしたのだが、釣りの普及も僕たちの活動の一つだから貰ってよ、と言われて納得。川釣り用の竿しか持ってなかったから、ありがたく頂いた。
「良い人だったねー」
「あぁ。思わぬところで良い出会いに恵まれたなー」
「クルゥ」
転生者としっかり話したのは2度目だ。シンイチは戦闘関連のことを教えてくれたが、バクチョウさんからは生産系を楽しむ転生者の様子を聞くことができた。同じ転生者でも、この世界の楽しみ方が全く違っていて面白い。
特に、戦闘以外のことに習熟できないことを残念に思っている転生者も多いんじゃないかなと思っていたけど、案外そうでも無いらしい。この先でも色んな人に会えるのだろうか。
それとトヴォのことを詳しく知れたのも助かった。前もって知ってたら心の準備もできるし。
「エリエルはトヴォ村について知らなかったのか?」
「んーん。ルイをサポートするために勉強させられたメインルートの最速攻略に、トヴォ村は入ってなかったんだよ。ルート以外の村や町の知識も少しはあるけど、小規模な集落や村はあちこちにあるからね。いくら可愛くて賢い私でも、全部は覚えきれないよ?」
「可愛さ関係ないし、賢かったら勉強させられるようなハメになってないだろうけどな」
トヴォ村にどんな事情があるのか分からないけど、食事とか海釣りとか、少しでも楽しみを見つけられたら良いなと思う。
爆上がりしていた期待のハードルを、ほんの少しだけ下げて、トヴォへと向かう。
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