第63話 ワウミィ

「カニ!あ、エビ!」

「クルゥ!」


 休憩を終えてエリエルは磯遊びだ。ここなら大丈夫だろうと呼び出したルカと一緒に、潮だまりを覗いてまわっている。食べれそうな食材があったら見つけてくるように言っておいたが、磯の辺りでは大物は居ないだろう。まぁ楽しんでくれればそれで良いのだ。


 俺はというと、暗くなる前にかまどを用意しておこうと適当な石を探して回ってるところだったのだが。


(トン…ビシッ!)

(コン…ピシッ!)


 浜辺にごろごろと転がっている石を見て、バルバラの杖術訓練を思い出してしまった。ここ最近、ハンマーメインで戦闘していたので、長杖の扱いが鈍っていないか心配だった。


 けれど身体はしっかり覚えていたようで一安心。突く、叩く、正確に、精密に。何度か繰り返して、この修行はハンマーでも応用できそうだな、などと考えていたら、ふいに声をかけられた。


「坊や、面白いことをしているねぇ」

「?」


 ちょっと集中し過ぎたらしく、人の気配に気づかなかった。声がした方に振り返るとそこには・・・何というか素敵なおねぇさんが立っていた。


「転生者かぃ?こんな辺鄙へんぴな村に、随分と物好きなこと。・・・どうしたんだぃ、坊や?」

「あ、いぇ。何でも」

「ルイー?だらしない顔!」


 トヴォ村の村人たちは和装だった。このおねぇさんも海女さん風というか、白い着物をお召しなのだが、胸元が大きくはだけておへその辺りまで肌色だ。しかも、何がとは言わないが、おっきい。背が高く、長い黒髪に白い肌、和風美人といった雰囲気の人だった。腰帯には魚を入れる魚籠びくを下げ、銛を手にしている。


「ん?ふふ。そうかそうか、わちに見惚れてしまったか。だがお主には、まだ早いのではないか?」

「えぇと、すみません。突然で驚いてしまって。この村の方ですか?」

「あぁ、そうよ。わちは村の外れに独りで住んでおる。漁師の真似事をして暮らしておるよ。お主らは、何をしにここへ?」


 先程まで柔らかい笑みを浮かべていたお姉さんが、目元にだけ微かに真剣な雰囲気を漂わせて聞いてきた。…のだが、特に隠す理由もないので正直に答える。


「魚が美味しいと聞いたもので」

「…それだけ、かぃ?」

「えぇ。本当に美味しかったです」

「うん。美味しかったねっ」

「ふ、ふふふ。そうか、そうか。この村の海産物は本当に美味しいからねぇ。気に入ったなら何よりだ」


 元通りの柔らかい表情に戻った彼女はワウミィと名乗った。外見からは分かりにくいが、鳥人族だそうだ。トヴォ村の人は人族ばかりに見えたし、村の外れに住んでいるって言ってたけど、何か事情でもあるのかな?


 ワウミィは俺がはったテントを目にして、夜の海は危ないからウチに泊れと誘ってきた。女性独りの家には泊れませんよと断ったのだが、坊やに何ができるわけでもなしと笑われた。


 続けて、わちは強いから、何かしたければもっと強くなってからにせぃよ?などとおっしゃっていた。もちろん何をするつもりもないし、久しぶりに屋根のあるところに泊れるのは正直言ってありがたいので、お言葉に甘えることにした。エリエルは “ルイに悪い虫が!” などと騒いでいたが、宿泊の方が大事だ。放っておこう。


「おぉ」

「へぇー」

「ふふ、何か珍しいかぃ?」


 浜辺から村はずれに向かうと、山の際にワウミィの家は立っていた。いわゆる古民家のような、古き良き日本家屋といった外観で、中に入ると居間の中央に配された囲炉裏が良い雰囲気をかもしだしている。端の方には…網とか、漁具が…散らかって…。


「ワウミィさん?」

「ワウミィで良いぞ?」

「ワウミィ、ちょっと片付けと掃除して良いか?」

「何?あぁ、その辺りのものは、じきに使うから…」

「ちょっとだけ、ちょっとだけで良いから!」

「ねぇワウミィ、ルイは片付けないと生きていけない、深刻な病に罹っているの」

「…何とも珍妙な病じゃな?まぁ片付けくらい、好きにするが良い」

「よし許可とった!ちょっとどいててくれ。あ、漁具は指示だけ頼む」


・・・


「ふぅ。満足したぜ」

「お主…涼やかな見た目のわりに、意外と強引じゃな」

「家事とハンマー以外は、まともなんだけどねー」


 久しぶりに家事ができて大満足だ。掃除については、まだまだやりたい所があるけど一応ここで一区切り。さてと…おもむろにアラカのエプロンを装着する。


「家事をさせてもらえたお礼に、夕食を作って差し上げよう」

「わちは妙なものを拾ってきてしまったのかもしれん。…少しうかつだったか?」

「あははっ。ワウミィ、妙なものには違いないけど、ルイの料理は期待して良いと思うよ?」


 村で調味料も調達してるし、久々の和食だ。何作るかなー。

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