第47話 観賞用ハンマーというジャンル
「こりゃまた随分と使い込んだなぁ」
木のハンマーを購入した店で点検と修理をお願いすると、差し出されたハンマーを見てウシ獣人の店主(心の中ではミノさんと呼んでいる)が、呆れたようなため息と同時にそんなことを言った。
「ゴブリンとワイルドボアまでは大丈夫だったんだけど、グレートディア戦でだいぶ傷んでしまって…」
「グレートディア!?お前、大丈夫だったのか?この木のハンマーじゃ少し荷が重かっただろうに。こいつの修理はしてやるが、そんな戦いをしてるようなら、そろそろ次のハンマーを考えた方が良いんじゃないか?」
そう言ってミノさんはこの前出してきた鉄と魔物素材のハンマーを取り出す。でも、この木のハンマーもだいぶ手に馴染んできたところだしな…あ、そういえば。
「ミノさん、これ見てもらえるかな」
インベントリからアクアハンマーを取り出す。
「誰がミノさんだ…よ!?こいつは!水属性のハンマーか?これなら、かなり上のレベルの敵までは戦えるぞ。属性付きのは使い方次第で無限の可能性があるからな。どんな効果があるんだ?」
「ベチョっとする」
「ベチョっと・・・する?」
「うん」
ちょっと何を言ってるか分からないという顔をして少し混乱したようだが、ミノさんはすぐに立ち直った。
「いやいやいや、そんなワケねぇよ。属性付きの武器は込める魔力の量や使い方ですげぇ威力を発揮するんだ。今は熟練度のせいか使い方のせいか地味な感じなのかもしれないけど、もう少し色々と試してみろよ。それにしても、なんでグレートディア戦でこれを使わなかったんだ?」
「いや、綺麗だし、使うのもったいなくて…」
「もったい・・・ない?」
「うん。鉱石か何かわからないけど、薄っすらと冷たい輝きを放っていて、それなのにヘッドから柄に至るまで流水のような装飾が施されて、無骨なフォルムの中にまるで美術品のような美しさがあるだろう?」
「お、おう。まぁ確かに綺麗だし分からなくもないが、ハンマーだぜ?武器なんだから、使わないでどうするんだよ。何のためのハンマーだと思ってるんだ」
「観賞用?」
「観賞用・・・だと?」
ミノさんは今度こそ意味が分からないという顔で完全にフリーズしてしまった。仕方がないので観賞用のハンマーというジャンルについて詳しく説明してあげようとしたのだが、
「あー、だからルイ、宿屋の部屋の机に飾ってニヤニヤしながら見てたんだ」
「うおっ!?何だ?妖精!?いや、天使?また珍しいもん連れてるな」
エリエルが現れた。ちっ、いざこれから布教しようという時に、邪魔なやつだ。
「こんにちは!私エリエル。ルイの天使だよ。あのねおじさん、この人変なんだよ。私もグレートディア戦の時にアクアハンマー使ったら?って言ったんだけど、さっきみたいに、もったいないって言ってきかないの」
「あー、あのな坊主。観賞用とやらは分からんが、属性付きのハンマーは使ってなんぼだ。例えば火属性のハンマーなら炎をまとわせることで延焼ダメージを与えたり、風属性なら風を操ったり。あとは魔法を武器で発動することもできる。炎属性の剣を振ってファイヤーボールを飛ばしたりとかな。そっち方面の熟練度や経験もいずれ必要になるだろうから、今の内から使って、使いこなせるようになっておけ。その方がお前のハンマーも喜ぶだろうよ」
「!!!」
何ということだ。俺は、あまりに美しいからこれは観賞用に違いないなどと勝手に思い込み、さらには大切に愛でるあまり、逆にこいつから戦う喜びを奪ってしまっていたのか!何ということだ!…アクアハンマーよ、悲しい想いをさせてしまい、本当にすまなかった。これからは存分に活躍してくれ、共に戦おう!
「ね?何かべっこり凹んで這いつくばったり、変な顔でアクアハンマーを撫でたかと思うと、急に天に掲げたり、変でしょ?」
「あぁ、こいつは変態だな。まだ若いのに、可哀そうに」
外野がうるさいが、今後は属性付きのハンマーも使っていこう。もちろん木のハンマーも修理してもらい、引き続き相棒として活躍してもらうつもりだ。
武器屋を出て、防具屋に向かう。革の軽鎧は思ったよりも傷が深く、修理が難しいとのことだったので、ワンランク上の魔物素材の鱗の鎧に買い換えた。少し高かったけど、グレートディアの討伐は先に常時依頼として受けていたので、その報酬でまかなうことができた。
グレートディアの報酬、思ったよりも良かったし、素材集めと生活費貯蓄を兼ねて、何頭か追加で狩っとこうかな。
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