第46話 ハチミツパンとプリン

 ビアデ牧場から宿屋へ帰る途中、見かけた食材屋で新鮮な牛乳を購入。店員さんと雑談する中で、この店の卵がビアデ牧場産だと知って卵も追加で購入した。頑張れビアデ牧場!


 宿へ到着。部屋で一息ついてから、階下へ降りて厨房を貸してほしいと申し出る。ちょうどお昼の時間が終わり、晩の仕込みもまだの時間帯だったので、快く承諾してもらえた。


 宿屋 ”麦の灯り” はパンが有名だ。当然、パンを焼く設備が充実している。いつも出されるパンは種類が豊富で飽きないけど、ハチミツパンは出されたことが無かった。森でハチミツを採取するたびに、久しぶりに食べたい気分が高まっていたし、甘いパン作りはちょうど良い気分転換になるだろう。


 アラカのエプロンを装着し、料理開始。


 これといって珍しい作り方をするわけではない。普通の甘いパン作りの工程で砂糖を使うところをハチミツに置き換え、水の代わりに牛乳を使う。水分量に注意が必要だが、そこは久しぶりの家事妖精スキルとクヌ直伝の料理スキル全開だ。ほんのり甘くてしっとりと、ハチミツの香りが食欲をそそるハチミツパンの完成である。


 ついでに、卵と牛乳でプリンも制作。オーブンがあるので焼きプリンにしてみた。厨房内はハチミツの香りとカラメルの香りが甘ったるく漂っているし、よだれを垂らしたエリエルも漂っている。


 料理途中で ”食べたい!食べたい!!食べたーい!!!” とうるさかったので、”騒ぐ子にはあげません!” と叱った。しばらくの間は正座して静かにできていたのだが、やがて我慢の限界を超えてしまったのか、うつろな目で空中をさまよう天使が完成した。これ、許可した瞬間プリンにダイブするんじゃなかろうな。


 ハチミツパンは作りすぎたので、厨房を借りたお礼に宿屋のみなさんに多めにおすそ分け。掃除、洗濯、料理と宿の仕事をそれなりにこなしてしまったせいで、従業員になってくれないかと熱望されたが、丁重にお断りした。


 せめてハチミツパンの作り方だけでも教えてもらえないかと言われたので、こちらは快諾。ただ材料に高級ハチミツを使用しているため、麦の灯りでも滅多に出さない特別メニューになるだろう、とのこと。こちらは交換で他のパン作りのコツを教えてもらった。


 プリンはそこまでたくさん無かったし、エリエルが限界に近い目でこちらを見ていたので、おすそわけは宿の従業員の人数分、一人一個にしておいた。長時間我慢させたため仕方ないとは思うのだが、“ヨシ!” と言った瞬間、顔から行った。毎回ハンカチ洗うのも大変なんだから、スプーン使ってほしい。


 ・・・


 翌日は武器屋と防具屋に行くことにした。ゴブリンやワイルドボアの討伐で、それなりに武器も防具も消耗していたところにグレートディアの狩猟に挑んだので、一気に傷んだ。そのため、メンテナンスするには丁度いいタイミングだと判断したのだ。


 武器屋に向かう途中で取引所前を通過しようとして、ふと思いついた。昨日のプリン、売れるんじゃないか?逆に、色んな料理を買えるんじゃないか?


 昨日作ったプリンはさすがに1度で食べきれる量じゃなかったし、残ったものは後のお楽しみとばかりにインベントリに放り込んだ。すると、金色の枠で<プリン>と表示されたアイテムになったのである。


 各種アイテムは白、銅、銀、金、虹色の枠で囲まれていて、おそらくレア度みたいなものを表していると思われる。通常のアイテムは白枠なのだが、例えば高級ハチミツは銀枠、バルバラの杖などは虹色の枠だ。


 プリンが金枠になったことに驚いたが、そもそもアイテムになったということは、取引できる可能性がある。さらにさらに、プリンが取引できるなら他の料理も取引されてるのではないだろうか?これは早速見てみなければ!


 ワクワクしながら取引所を覗くと、前回は気づかなかったが、”料理” というカテゴリを見つけた。ハンバーグ、スパゲティ、ピザ、サンドイッチからご飯に味噌汁まで、あるある!…のだが、ほとんどが銅で、一部に銀があるくらいだった。まぁみんな、美味しい料理を取引所には流さないよね。


 あと恐らく、転生者は料理ベタというのも理由の一つだろう。自分達で作ると低品質になってしまうらしいから、高品質の料理はどうしても市場に流れにくくなる。


 色々食べたいとは思うけど、やっぱり美味しいものを食べたいし、これから世界中を見て回るんだから、それぞれの土地の材料を使って自分で作るってのも楽しみの一つになるかな。


 久しぶりに色々な料理名が並んでいるのを見た嬉しさと、品質面でのガッカリ感と、新しい目標を見つけた前向きな気持ちを一息に味わうこととなった。


 とはいえトータルで言えば、まあ楽しかったので、投げ銭気分で金枠プリンを1個だけ取引所におすそ分けがてらに流す。優しい人に食べてもらうんだよ?そんな気持ちで武器屋へと向かった。

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