第48話 再びビアデ牧場へ

 あれから数日はワイルドボアとグレートディアの討伐をメインで活動した。レベルも10になって一区切りついたし、そろそろシェット君とラフさんも治った頃かな、と思ったので、久しぶりにビアデ牧場を訪ねてみることにした。


「すみませーん」

「はーい、どちら様ですかー。あれ?もしかして、あなたがルイさんですか?」


 扉を開けて出てきたのは、10歳くらいの犬獣人の男の子。好奇心旺盛な感じの瞳に浮かべる表情からは、とても活発な印象を受ける。


「はい、冒険者のルイです。君がシェット君かな?初めまして」

「わぁ、やっぱり!父と母から話を聞いて、お会いしたいと思ってたんです。母のことも、本当にありがとうございました」


 礼儀正しい少年だ。すぐに、両親を呼びますねと言って中に戻ったが、いや、大げさにはしないでほしいんだけど。ぱたぱたと急ぎ気味の足音が聞こえたかと思うと、


「ルイ君!来てくれたんだね」

「ルイさん!来てくれたのね、さぁ、入って入って。ちょうど午前のお茶の時間だったの」


 物凄い勢いでビアデさんとラフさんが現れ、あっという間に室内にさらわれた。お土産のハチミツパンを渡すと、早速薄切りにして焼いたものを出してくれて、お茶の時間だ。


 農家の朝は早い。しかも重労働だ。昼まではお腹が持たないし、外での作業は汗もかくので水分と塩分の補給も大切になる。そのため早朝と昼の中間、昼と夕飯の中間に、それぞれお茶休憩の時間があるのだ。


 ”大事な休憩時間にお邪魔して済みません” 、と言ったら、”農場や牧場に出ている時間が長いから、家に居る時間で良かった。君なら仕事中だろうが休憩中だろうが、いつでも歓迎だよ” と返された。


「お元気そうで何よりです。ラフさんも、シェット君も」

「おかげさまでね。シェットはもう完全に大丈夫だ。ラフはもう少しかかるかな」


 確かに、シェット君は快活な感じがする。初めて会うけど、病気だったとは思えない様子だ。ラフさんはまだ少しだけ桜模様の斑点があり、黒目にも薄っすらと灰色のもやが見えるが、俺の見立てでも順調に回復しているのは間違いない。


「それは良かったです。薬を最後まで服用していただければ、ラフさんもすぐに良くなりますよ」

「ありがとうね、本当に」

「もうお礼は大丈夫ですよ。私は配達しただけですから」

「それでも、ね」

「いや、ルイ君。敢えて聞くけど、本当はあの薬、君が用意してくれたんじゃないかな?」


 ビアデさんの急な一言に、思わず息をのむ。何故?どうして分かったんだ?


「・・・どうしてそう思われるんですか?」


「私も桜眼病については色々と調べたんだよ。ラフの目が何とかならないかと思ってね。桜眼病の薬の材料の1つはグレートディアの素材だけど、あの魔物はとてもレアでね。この周辺地域ではエンの街付近の森にしか生息してないんだよ。だから、他の街で薬や素材が余ってるなんてことは考えにくい。しかも、ルイ君が病気を知って数日で持ってきてくれただろう?数日で届くなんて近場の距離ならなおさらだよ。特殊な薬だから、最初から持っていたとも考えにくいし、色々考えると、ね」


 うーん、だめだ。バレてる。そりゃそうだよね。身近な人の重い病だもの。俺よりも長い時間、悩み、調べて、詳しいはずだよね。観念して頭を下げる。


「嘘をついてすみませんでした。受け取っていただけないと思って…」


「いや、こちらこそ。気遣ってくれたんだろうということまで分かった上で、あばきたてるような真似をして本当に申し訳ない。恩人に対してどうか、とも思ったんだけど。それ以上に、ルイ君自身にちゃんとお礼をしたかったんだ。だから敢えて明らかにしたかった、どうか許してほしい。改めて、本当にありがとう。本当にごめん」


 頭の下げ合いみたいになったけど、お互いに好意でやったことだから水に流しましょう、と笑いあって終わった。


「そこで、提案があるんだ。提案というかな、受け取ってほしいお礼なんだけど。ウチには農場と牧場がある。いくらかの農作物も譲りたいんだけど、ルイ君は冒険者だろう?ウチ自慢のポワ・クルーを1頭、連れて行ってくれないかな」

「ポワ・クルーって、騎乗できる鳥のことですよね?実物は見たことないんですけど」


 ギルドの受付嬢にビアデ牧場について教えてもらったときに、出てきた鳥だ。話を聞いたときは是非とも見てみたいと思ったんだけど、何だかんだでバタバタしていたので、まだお目にかかっていない。


「そう。冒険者は移動が多いからね。移動手段として馬や馬車を使う人も居るけど、厩舎が必要になって色々と旅に制限がかかるからね。魔物由来の騎獣を持っている人は多いって聞くよ」


 ビアデさんいわく、馬などの動物は当然世話が必要で、街から街へ旅するにも、毎回厩舎に預けて世話をしてもらう必要がある。しかし魔物由来の騎獣はエリエルのようなシステムになっているようで、冒険者がオフにしている時は異なる次元の似た世界で勝手にのんびり休憩しているみたい。


 いつでも乗れて、いつでも別世界で休憩してくれるならこんなに助かる乗り物は無いだろう、けど。


「いただけるならありがたいですけど、貴重なんじゃないですか?」

「もちろん貴重ではあるけど、私たちの感謝の気持ちは、とてもじゃないけど表しきれないくらいなんだよ」

「他にも何かあればと考えたんだけど、冒険者ならこれが一番かしらって。話し合った結果なの。受け取ってもらえない?」

「乗り方なら、僕が教えてあげられるよ!」


 三者三様、それぞれの言葉で奨めてくれる。旅を続ける上で非常に助かることは間違いないので、その御礼を受け取ることにした。


「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」

「乗るのには少しコツがいるから、時間の都合が良ければ、しばらくは毎日、ウチに通うと良いよ。1週間もあれば、旅に不都合を感じないくらいには乗れるようになるから」


 こうして、この先1週間の予定が決まったのだった。

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