第25話 腕輪の手がかり
「バルバラ…心配なのは分かるけど、過保護すぎるだろう」
あきれ顔のシンアルの言葉に、流石にちょっとやり過ぎたと思っているのか、バルバラの視線がさまよう。
「ふん。こいつは貧弱だから、冒険者なんか始めたらすぐに死んじまうだろうよ。せめて自分の身は自分で守れるくらいにしてやらなきゃ、他人様にも迷惑がかかるじゃないか」
「いや、だからといって。ハイヒールやプロテクションくらいならまだしも、エクストラヒールやレイズデッド、さらには女神の円環(ゴッデス・サークル)まで教えることは無いだろう?幸いレベルや最大MPの不足で発動はできないようだが」
そう。バルバラは様々な魔法を教えてくれた。女神の円環にいたっては一定時間、攻撃、魔法攻撃、防御、魔法防御にスピードまで強力なバフ(能力値上昇)がかかるブッ壊れ性能である。
これから冒険者になろうという新米が覚えるとは思えないレベルの魔法だ、何だかおかしいな、とは思ったのだ。思ったのだが、偉そうに教えるバルバラと大げさに褒めたたえる俺、二人してノリに乗って調子に乗った結果、こうしてシンアルの説教を受けることになったのである。
「私たちは女神さまに、”幾多の試練を乗り越えしものに、新たな力を授けよ”って言われてるんだからね。まぁ無事に教えることができたということは、世界のルールにも逸脱していないんだろうけど」
「そうだろうそうだろう。教えることができたってことは、そういうことさ。女神さまもきっと喜んでくれるだろうよ」
「いや、ダメに決まってるだろ」
シュンとしていたバルバラが急にニッコリ笑顔で開き直ったので、思わず真顔でツッコんでしまった。
「まぁ、教えてしまったものは仕方がない。ルイならその力を悪用することも無いだろうからね。それよりも、今日の本題は別の事だ。頼まれていたこと、やっと少し分かったよ」
「ほう?」
「何?なんの話?」
「ルイ、君が転生者だということをバルバラから聞いたよ。初めて会ったときに、腕輪を手に入れる方法について尋ねていたのは、それが理由だったんだね」
驚いて息をのむ俺。またもバルバラが視線をさまよわせる。勝手に話したことを気にしているようだ。
「うん。内緒にしていて済まなかった。バルバラも、いいよ。シンアルにはいずれ話そうと思ってたから」
俺の反応を心配していたのか、少し安心したかのようにバルバラが一息つく。
「流石に言いにくいことだったろうからね。私にすぐに相談できなかったのも分かるよ。バルバラが私に依頼したのは、”地元民が転生者の腕輪を手に入れる方法”を調べてくれってことなんだ」
「あぁ、なるほど」
それなら、バルバラが俺の事情を話さなければならなかった理由も分かる。シンアルは依頼を受けてから、随分と手間暇をかけて調べてくれたらしい。本当に頭が上がらない。
「転生者関連のことは我々地元民には中々分からないから、少し時間がかかってしまったよ。何でも、基本的には新しく手に入ることはないらしい。ただ、かなり前にちょっと変わった緊急クエストが転生者に向けて配信されていてね、その報酬が腕輪らしいんだ」
転生者は腕輪を身に着けた状態でこの世界にやってくる。身体から外れないので失くすこともないし、1つあれば充分なので2つ目は不要だ。
なぜこのクエストの報酬が腕輪なのか、2つあると何か裏技的なメリットがあるのか、はたまたレプリカで、アクセサリーとして身に着けて楽しむのか。クエストが配信された当時の転生者の間でかなり話題になったらしい。ただ、
「そのクエストは誰にも達成できなかった。だから、その腕輪が本物か偽物か、どんな効果があるのかも分かっていないんだ。これまで誰も達成できなかったから、今では転生者たちの間ではバグ?というらしいんだけど、女神さまのうっかりミスじゃないかという結論に落ち着いている」
「うっかりミスって…」
神様は間違えないというのが一般的な宗教観だと思うんだが。
「いやー、女神さまも間違えることくらいあるよ。慈愛にあふれて、真面目で、でも、とてもお茶目な方だと信じられているからね」
随分親しみやすい女神さまらしい。シンアルいわく、お告げの表現が変だったり、突拍子もないクエストを配信したりとなかなかのお茶目っぷりなのだが、地元民たちはそんな女神さまを敬愛しているようだ。宗教が原因でテロが起きたり戦争が起きたりしなさそうな、優しい世界なのは何よりだと思う。
「じゃあ俺が冒険者になったら、そのクエストに挑戦したらいいんだな」
「うん。これまで未達成だったクエストを達成するのはとても困難なことだと思うけど、今はこれしか手がかりがないからね。大丈夫、ルイならできるよ」
「ふん。気長にやればいいんだよ。腕輪なんて無くたって生きていけるんだからね」
二人の励ましが嬉しい。どんなクエストかも分からないけど、時間がかかっても何とか達成して、この二人に報告したいと心から思った。
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