第26話 15歳、冒険者登録1
15歳を迎えた。この世界に来た日から数えて、なので少し不安は残るが。身長も少し伸びた。小学校高学年だったのが、中学校3年または高校1年に見えるくらいにはなったと思う。
「ルイ、今日は登録だけにしときな。クエストを受けてくるんじゃないよ」
「あぁ、分かってるよ。先に買い物済ませて、どんぐり亭でメシ食ってから登録に行くから時間も無いだろうしな。初めてのクエストは明日の楽しみにとっておくよ。行ってきます!」
冒険者になるまで3年もかかったんだ。ここは一つ一つのイベントをじっくりと楽しんでいきたい。某RPGでは最初の街付近で水色の水滴のようなモンスターだけを相手にひたすら戦ってお金を貯めて、その街で買える最高の武器と防具を全ての仲間に揃えてから次の街へと進んだものだ。
まあ、たいていは次の街に行くための洞窟に落ちている宝箱に買ったばかりの装備が入ってたりして、少し凹むことになるのだが。それはさておき、今日は登録、明日は今買える装備でも買って、明後日は簡単なクエストとか、そんな感じかな。などと考えながら、いつものように街に到着する。
「よおルイ。今日も買い出しか?」
「買い物も用事だけど、今日はいよいよ冒険者登録だよ、ベルンハルト」
「え?お前もう15歳か!早いもんだなー、あんなに小さかったお前がなー」
「小さかったって、たったの3年だぞ?そんなに変わってないだろ」
「いやいやこんなだったぞ、こんな」
「豆か」
ベルンハルトが親指と人差し指で輪っかを作る。確かに体格のいいベルンハルトに比べればまだまだ子どもなんだろうけど。
「まあ、まだまだひよっこのひよこ豆ってとこだ。冒険者になっても、無理するんじゃないぞ」
「あぁ、もちろんだ。ゆっくりやるよ」
どんぐり亭での手伝いが終わってからは、街の出入りの時くらいしか会う機会は無くなってしまったが、それでも会うたびに気にかけてくれる。いつかパーティ組んで戦ったりとかしてみたい。非番の日とか誘ったりできないのかな、などと考えながら、今日のところは住民カードを見せて通してもらった。帰りは冒険者カードだぞぅ。
食材を少し、日用品を少し、買い物を終えたらどんぐり亭に顔をだす。
「いらっしゃ…ルイ!久しぶり!」
「こんにちは、アラカ。相変わらず元気だな。いつものお願い」
「はーい。お父さーん。ルイきたよー、いつものー」
アラカも少し大きくなった。初めて会ったときは子どもっぽさが残っていたが、今は所作が少し大人びて、ちょっとだけお姉さんになった感じだ。シラカの面倒を見てるからというのもあるかもしれない。
「おう、ルイ。珍しいな、買い物か」
厨房からのっそりとクヌが顔を出す。こちらは相変わらずだ。
「買い物は済んだ。いよいよ今日はこれから冒険者登録するんだ」
「そうか。いよいよか。お前なら大丈夫だ。頑張れ」
「ありがとう。コナとシラカは?」
「今は家だよ。お昼のピークを過ぎたから、ちょっとだけ戻ったんだ。入れ違いだったね」
「あー、久しぶりにコナとシラカの顔も見たかったけど仕方ない、また今度にするか」
これから街に来る機会も増えるだろうし、また会えるだろう。運ばれてきた昼飯は大盛だった。毎回サービスしてくれるのは嬉しいんだけど、ぎりぎり食べきれるくらいを攻めてくるところはさすがクヌだ。頑張って食事を終えた。
さていよいよ本日のメインイベント、冒険者登録だ。まだ14歳と12か月とかだったらどうしよう、色んな人に話しちゃったし。それに俺の場合は転生者が地元民に混じったような、イレギュラーな存在だしな。色々不安はあるけど試してみないと分からない。覚悟を決めて冒険者ギルドの扉を開けた。
久しぶりの冒険者ギルドは閑散としていた。元々このヌルの街は冒険者が少ない。街の周囲には魔物がおらず、クエストも、町中でのお使いなどの軽作業以外は、薬草採取か小型の野生動物の狩猟くらいのもの。レベルも上がらないし、お金も稼げないのだ。
そのため、転生者はこの街に転生したら、まず冒険者ギルドで登録を行い、街の内外で少しクエストを達成したらすぐに次の街に向かうそうだ。地元民の冒険者も仕事が少ないからほとんどが兼業で、ギルドにはあまり出入りしていないらしい。
併設の酒場も昼のピークを過ぎた時間だからか、今は誰も利用していないようだ。”お前のようなちびっ子が冒険者登録かよ”とかいう先輩冒険者からの絡まれイベントの心配もしないでいいし、並ばないで済むのもありがたい。受付に進もう。
「すみません。冒険者登録をお願いしたいのですが」
「はい、冒険者登録ですね。それでは…あれ?」
「え?」
「家事手伝いのルイくん?」
「いや確かにそうだけど、その呼び方はちょっと」
変な二つ名みたいで勘弁してほしい。
「あ、ごめんごめん。ほら、随分前に住民登録に来てくれたでしょ?その時の担当、私」
お姉さんが自分を指差しながら教えてくれる。
「え、覚えてくれてたの」
「そうよー。受付なんてやってると、人の顔を覚えるのが得意になるんだから。しかも同じ人間とは思えない美形。あの日から私、1週間くらい落ち込んだんだからね。そりゃ覚えてるよ」
「あ、はい」
ニコニコしながら怒るのやめて欲しい。どう考えても俺のせいじゃないし。
「それはともかく、大きくなったねー。見違えたよ。冒険者登録ってことは15歳になったんだね。じゃあ手続きしましょうか。この魔道具に手をかざしてくれるかな」
住民登録の時と同じように、平たい板に水晶の玉のようなものが埋め込まれた魔道具が用意される。言われた通りに手をかざすと薄く光り、横からカードのようなものが現れた。
「はい、これが冒険者カードだよ。といっても書いてある内容は住民カードとほぼ一緒だけどね」
さて、どんな表示になっているのだろう。不安と期待をごちゃ混ぜにしながら、カードを受け取った。
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