第4話 そして(遅れて)異世界へ


「1年遅れたからってどってことないんだけどね?周りのみんなに追いつくのがちょっとムリめーな感じなくらいだし。あ、一応初心者応援キャンペーンとかあるから!そこんとこはやっぱしっかりしてるよね!」

「その世界を作った女神さまがな!」


 初心者応援キャンペーンはゲーム内のバランス調整の一つである。提供開始されてから1年、2年と経過するうちに新規に開始するプレイヤーと古参のプレイヤーの差が付きすぎてしまうため、始めたばかりの初心者に対して経験値アップや所持金アップなどのサポートを行う仕組みだ。


 カードゲームだったら強力なカードを、キャラクターゲームだったら強力なキャラクターを最初から所持した状態で始められるなど、内容はゲームによって様々だったりする。


「えー!?アタシもちゃんと説明とかしてるじゃーん!」

「その説明が長かったから出遅れちゃったんだろーが!」

「ううっそ!?バレてる?アンタ意外とするどいね!」

「…はぁ。もう、大方分かったから、他に必要な説明とか手続きとか頼む」


 これ以上遅くなったとして、どんな影響があるか分からないけど、望ましい状況にはならないだろうし。


「おっけー。ほぼほぼ必要なことは話したと思うし?サクッと行ってらー!」


 エリエルが両手を前に広げてポーズをとる。写真に写るときに小顔に見えるとかそんな理由だったと思うが、こんな軽い感じで大丈夫なのか本当に。などと若干不安を感じていたら、受付机の上に綺麗な腕輪がいくつか並んでいるのに気づいた。エリエルも俺の視線に気づいたようで、ポーズはそのままに目線だけ机の上に…って何だよその顔!


「やっばーぁい!」


 もはや顔だけではなくポーズまで崩して慌て始めるエリエル。間違いなく何らかの手違いが起きたことを悟って、ひきつる顔の俺。急速に自分の存在が希薄になっていくような不思議な感覚に襲われながらうつむくと、手足が風景に溶け込んでいくのが見える。慌てて顔を上げると、物凄い勢いで腕輪をつかんだエリエルが机を乗り越えようとして…すねをぶつけて転ぶ姿が浮かんで消えた。


 ・・・


 気がつくと今度は建物の中だった。家具も何もない石造りの小部屋だが、正面には少し背が高めの成人女性くらいの大きさの、女神像が置いてある。周囲には自分以外誰もいないが、礼拝のための部屋だろうか?少し薄暗い。


 この短時間であちこち飛ばされたせいか、少し体に違和感がある。エリエルが居た空間とは違い、空気に匂いがあるというか、光を自然と感じられるというか、自分がこの世界で生きているという感覚が戻ってきたようだ。とはいえ…。


「さて、どうしたもの…か!?」


 ふと独り言をつぶやいた瞬間、自分の声に強烈な違和感を感じた。渋めとはいえないが、そこそこのおっさんボイスだった俺の声が、少年というか、もはや少女ような高めのものに変わっていた。


「え?…うえぇ!!?」


 慌てて体をまさぐるが、長年連れ添った大切な相棒は確かに付いていた。付いていた…のだが、服の上からでも小(ちい)サイズになってしまったのが分かる。何とも言えない寂しさに包まれながら手足や顔、体を触ってみるが、随分と華奢な体格になっていることに愕然とした。


「…子供になったのか?」


 改めて目線の高さから推測すると、身長は小学校高学年くらいだろうか。少し黒が混じったような銀髪が肩の下あたりまで伸びてはいるが、少なくとも大人の体ではない。あるいは成人してもこれくらいの大きさの種族、ということもありうるか。


 エリエルは見た目が大きく変わることはないって言ってたけど、充分変わり過ぎだ!というか、これもヤツのやらかし案件に関係してる気がしてならない。


「エリエルは冒険者になれって言ってたけど、その前に自分の置かれている状況を確認したいところだな」


 小さくなったこと以外にも何か不具合がありそうだし。あの様子だと、腕輪を渡し忘れたって感じなんだろうけど、どうなんだろう。分からないことが多すぎて不安になる。ゲームだったら開始直後に始まるチュートリアルに従ってれば大体のことは分かるんだけど…。


「っつ!?」


 気配を感じて振り返ると、ドアのない入口に年配の男性が立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る