第3話 エリエルの異世界講座
「女神さまが用意したのは、みんな大好き剣と魔法のファンタジー世界。経験値とかレベルとかもあって、君たちの世界でいうゲームみたいな感じ?努力すればするほどちゃんと強くなれて、モンスターがドロップする素材やアイテムを売れば、お金持ちにもなれる。だけど、努力しなければ何も手に入らない。そこは、ちゃんとリアルな世界っていうか?生きることをおろそかにしないようにみたいな?女神さまも変なトコ真面目だよねー」
ギャル天使による異世界案内が始まった。ラノベはあんまり読んだことがないけどゲームはそれなりにやったことがあるので、雰囲気はだいたい分かる。
説明によると、転生した際にその人の魂に応じて職業(クラス)が自動的に決定されるそうだ。ウォーリア、ウィザード/ウィッチ、プリースト/プリーステスなどがあるが、後で転職は可能とのこと。
なお種族や見た目を自分で変更することはできないが、転生した時点でその人の本質にしたがって髪の色が変わったり、少しイケメンになったり、体型や体格が変わったりはするらしい。
ゲームでは当然自分で色々選ぶ必要があるけど、俺の場合は職業で迷い、種族で悩み、組み合わせてはやり直し、いつになったら始められるんだって思いながら半日かけてようやく決定したら、その後にキャラクターメイキングで見た目を調整してくださいって言われて、ゲームをスタートするまでにさらに半日かかったりしていた。
色々選べないのも不自由だな、とは思うけど、あちらの世界も一応リアル人生だから、転生元の魂の在り様と転生先の体格や行動に差がありすぎると、不幸なことになるんだとか。そのため、見た目も自分自身が受け入れられないほど大きくは変わらず、職業も違和感なく馴染めるものが選ばれるそうだ。
なりたい自分と本当の自分は案外違ってたりするんだろうね。けど転生先で自分の職業を確認した時に<職業:
「でもさー、人々可哀そーっていう女神さまの気持ちも分かるっていうかー?ま、アタシなんかが分かるとか畏れ多い話なんだけどさ。リンネってやつ?その発想は無いよねー。他所の考え方だけどすぐに取り入れてさ……ってか、もしかこれって流行の最先端!?マジですごくね?女神様パなくね?」
何かギャル天使が遠くを見ながらお祈りポーズでキラキラしてるが。輪廻転生ってたしか紀元前からある宗教の概念だから、人間的には2000年以上前?神様レベルだと流行り廃りのズレも壮大なのな。見た目が明らかに西洋風の天使だから輪廻転生は余所の考え方になるのか?説明は分かりやすいんだけど、合間合間に感想とか入るから、やたら時間がかかる。あと所々意味がわからん。
「で、生年月日と名前をここに書いてくんない?」
あ、唐突に話題が変わって書類手続きに入るのね。はいはい……って、これボールペン?こんなとこでも普通に使われてるんだな。まぁ個々人の認識とか認知とかそんな高次元の話なんだろうけど。雑な受付机も俺のイメージによるもので、社長さんが転生する時は高級万年筆とかになるのかな、などと考えながら署名。
「久間川、塁?くまがわるい…熊が悪い?間が悪い?っくふーくすくすぅ!」
ッオイ、天使。人の名前で笑うとは親(女神?)の教育はどうなってるんだ。確かに何度も笑われてきたから多少は慣れてるけど、久しぶりのせいか腹が立つな。
「ごめんごめん。いや、でも、いやいや、このタイミングでそれ?…っくふぅ!」
「もういいから、さっさと立ち直れよ。手続きを進めてくれるか」
もはや貴様には敬語など不要だ!
「ホントごめんて。アタシの名前はエリエル。お詫びに良いこと教えてあげるね?」
くそぅ。笑うと可愛いのはずるいじゃないか。元々人とのコミュニケーションが苦手で内気な性格のせいか、人の笑顔とか優しさにはコロッと騙されてしまう自分が情けない。
「あのね、転生したらとりあえず冒険者になるといいらしいよ?何はともあれ生活の糧って必要じゃん?アタシも生活力のない男とか、いくらイケメンでもお断りだし?」
「何か商売とか、農業とか、他に稼ぐ手段はないのか?」
大冒険とかも読み物ならまだしも、自分がしたいとは思わないタイプです。
「基本は冒険だね。薬草採取とかモンスター討伐とか、ギルドのクエスト報酬で稼ぐの。個人から依頼されるクエストとかもあるけどね」
「それだと、経済が回らないんじゃないか?」
農業、漁業、林業、鉱業などの一次産業に従事する人がいないと、世の中は成り立たない。みんながみんな、冒険者というわけにはいかないんじゃなかろうか。ゲームでも作物を植えたり、釣りをしたりというのはサブコンテンツとして用意されていることが多かったし。
むしろ鍛冶や錬金などの武具製作、道具製作も含めた戦闘系以外のコンテンツをメインに楽しむ、いわゆる生産系とか農民とか呼ばれるプレイヤーもいたぐらいだ。俺もどちらかといえばそういった戦闘以外の楽しみの方に熱中してしまって、メインストーリーが中々進まない方だ。
「そこはそれ。女神さまが用意した世界って言ったでしょ?NPCっての?先住民みたいな人たちが元々暮らしてるワケ。転生者がいなくても世界はちゃんと成立してんの」
転生者とNPC(ノンプレイヤーキャラクター)は明確に区別されているらしい。差別ではない。これ大事。NPCだけでも成立していた世界に、転生者が転生してきた。NPCは転生者のことを<異世界から来た者>と理解しているし、自然に受け入れている。ただしNPCは転生者に対して限定的な情報提供を行うなどの<世界のルール>に従って行動する。
例えば、あるNPCは『この町は〇〇という名前だよ!』などという定型文をしゃべることは無いが、会話の流れにおいて無理のない範囲で町の名前を教えてくれるし、それ以外のことは基本的に自分からは話さない。親密度的なパラメータ……というと味気ないが、仲よくなれば提供してくれる情報量や対応も変化するが、一定の範囲からは逸脱しないようだ。
「だ・か・らぁ~、転生者は冒険で稼ぐのが基本なの。他の手段で稼ぐこともできないことはないけどね?ただ生活のためにやりたくもない仕事をする、なんてことはしないで済むような世界になってんのよ」
エリエルが人差し指を立てて、フリフリしながら教えてくれる。他にも、最初はギルドクエストよりも住民からのお使いクエスト(荷物を届けるなどの簡易な依頼)を達成して、装備を整えるなどの準備をしてから本格的な活動をしたほうが良いことなど、アドバイスをもらった。見た目は不真面目そうだし実際ノリも軽いのだが、悪いやつじゃないのかも?
「あ、いっけなーい!もーこんな時間?ちょーっち話過ぎちゃったかな?」
「ん?何か問題あるのか?」
「いやー、ここと向こうでは時間の流れが違っててね。今すぐ手続き完了しても、みんなが転生してから、そうねー……1年後くらい?」
悪いやつじゃない……が、悪気なく迷惑かけてくるタイプのやつだこれ。
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