第2章-2
竜海に唯が死ぬ理由に心当たりがあるか聞いてみたが、あっさり首を振られてしまった。家に着き、どこにいて何をするのか正解か分からなくて、結局恵太は自分のベッドの上で天井を見つめた。スマホを両手で掲げて操作してみるが、何も頭に入ってこない。手が重たくなってきて、体の横へ両手とも投げ出した。視界から画面が消えると、なんの救いにもならないと思っていた行為が、思考を食い止めるのに役立っていたのだと知らされる。もう何度目か分からない、自問自答がまた浮かんでくる。
唯が自殺するまで追い詰められた原因は、誰にも分からないのかもしれない。結局、唯にとって自分はなんだったのだろう。死にたいほど悩んでいたとして、『二番目に大切な人』にはそれを相談する価値もなかったのだろうか。『一番大切な人』には相談したのだろうか。どうして、そいつは止めてやれなかったのだろう。
考えたって分かりようがないという結論に至ると、今度は唯と過ごした記憶が頭に流れ込んでくる。初めて会った時のこと、何気ない会話、時にイラつかされたこと。やたら本が好きで、いつも鞄がパンクしそうだったこと。いつからか、暗い顔をしている姿を見るようになったこと。
一瞬、ひと際様子のおかしい唯の姿がよぎる。あれはいつだったか。目の前で、途端に唯の様子が一変した日。恵太はすぐに、その光景の正体に思い当たった。莉花という女と会った時だ。ヘイトロッカの後追い自殺についてインタビューの最中、唯は続きができないほど蒼白になった。莉花と約束したインタビューの続きは、叶わないものになってしまったのだと、また当たり前のことに気づかされた。
後追い自殺。その響きに、恵太は惹きつけられた。好きなバンドのメンバーが死んだからといって、後を追って死ぬファンが何人もいた。友人が死んだ時、後を追うことは不自然なことなのだろうか。世間が思うより遥かに、大切な相手がいない世界を無理に生き続ける必要はないのかもしれない。
「ばかじゃねえの」
恵太は声にならない、微かな呟きで自分に言い聞かせた。振り切るように体を起こし、ベッドから足を下ろす。
あまりにも浅はかで無意味だと、考えるまでもなく分かることだった。分かると同時に、答えが出たはずの疑問がまた顔を出す。では、自分はどうしたらいい?
無限に続く螺旋に落ちていきそうだった。逃れる術を探して部屋の中を見渡したが、結局手元にあるはずのスマホを手探りで求めた。
画面上に電話帳を呼び出し、未だ正体の分からない電話番号に触れる。唯が残した、幽霊と繋がるという番号だ。唯が死ぬ前にも何度かかけてみたが予想を裏切る事態は起きず、聞き飽きたコール音と留守電の自動応答アナウンスが流れるだけだった。
ほとんど自動的な動作で通話マークを押す。初めて押したときのような躊躇いは、すっかり無くなっていた。ほどなくして留守電の応答に切り替わる。不思議と、番号を削除しようという気にはならなかった。
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