第1章-3

 二年生になって一か月。恵太は肘をついて目だけは玉田に向けていた。一年生の時のレポート事件から、玉田のマンツーマンの指導を受けるに至ってすっかり存在を認識されてしまった気がする。授業中、頻回に目が合うので気楽に寝られなくなってしまっていた。

「ねえ、今日の玉ちゃんの髪かわいくない?」

「ちょっと聞いてみてよ。彼氏できた? って」

 後ろの席で誰かが話しているのが、恵太の耳にも届いてくる。言われてみれば、確かに玉田の雰囲気はいつもと違っているように見えた。よほど興味を惹いたのか、控えめだった談笑は二人から三人、それ以上の声の輪へと広がる。

「あの、聞こえてますか?」

 ついには玉田に見つかって、半分泣いているような顔で声が掛かった。

「センセー、今日かわいいね」

「え、あ、はい」

 物怖じせず真顔で教師を褒める生徒と、受け入れてしまう玉田。チャンスを窺っていたかのように、一斉に教室のあちこちで弾んだ声が続く。

「はい、って言っちゃったよ」

「だってかわいいから、いいんだよ」

「誰か意識してるのかな?」

一年生の時のクラスは妙に大人びていたというか、生徒が玉田に合わせて授業の進行を乱そうとしなかった。二年生のこのクラスは、やたらと干渉的な奴が多いようだ。他人の作る暗黙の壁なんか気にしないで、クラスメイトにも教師にも踏み込むのが多数派になっている。同じ玉田の授業でも、授業風景は違ったものになっていた。

「坂井はアリ? 今日の玉ちゃん」

 前の席から星井が振り返る。銀縁眼鏡越しの糸のような目が、好奇で満ちている。

「ナシ」

 恵太が即答すると、「激辛評価じゃん」と笑い満足気に前へと向き直った。恵太からすれば、玉田である以上どう飾っても検討の余地があるとは思えなかった。

「なあ」

 一向にクラスの喧噪が止む様子がないことに便乗して、星井が再度体を捻ってくる。恵太が視線を合わせると

「今チャンスだろ。動画見とけよ」

「バカ、見つかったらどうすんだよ」

恵太は苦笑いで首を振った。

 星井は仕切りに、以前送りつけてきたアメフトの動画を見るように促してくる。恵太にはまるで興味のないスポーツだったが、星井はアメフトのルールや迫力、戦略性について語り始めると止まらない。あまり熱く語るので、一度ぐらいは試合を見てみるのもいいかもしれないと思うようになっていた。

 次第に誰かが自重し、たっぷり時間をとってからクラスは落ち着きを取り戻していった。こまめに視線を向けてくる玉田を前に寝るのも難しく、恵太は教科書を立てた。内側に、唯から借りた本を重ねてある。今日の本は時代小説。先日借りたのは生物の本に音楽史に哲学書と、一貫性がない上にどれも難しく、読めた本はなかった。さすがに小説は読みやすいのではないかと期待したが、耳慣れない人物の名前が整理できずに諦めた。再度目線だけ玉田に向け、聞き取りにくくか細い声を理解することも諦めた。

 


 昼休み、唯の席の前には恵太が座っているのが二年生からの当たり前になっていた。この、馴れ馴れしい人間の集まりのようなクラスですら、昼休みは誰も二人の間に入ってこようとしない。学年が変わって痛手と言えば、竜海が別のクラスになってしまった。恵太の頭を悩ませているのは、唯との付き合い方だ。竜海と三人でいたことで目立たなかった唯の生け贄制度が、クラスの中で違和感を隠せなくなっている。たびたび二人は付き合っているのかと尋ねられ、否定しても信じてもらえないか、冷やかされるかのどちらかといった具合だ。

「星井んち、めちゃでかいテレビがあるんだってさ。俺んちのショボいから楽しみだ」

 状況は気に入らないがどうすることもできず、恵太は普段同様に唯に話しかけた。近く、星井の家にアメフトの試合や雑誌を見せてもらいに行く約束をしたことを話題に出す。

「テレビでテンション上がるって、昭和みたいだね」

 コンビニあたりで買ってきたと思われるパンを頬張りながら、唯がからかうように言った。確かに、と恵太は唸って少し気恥しくなる。

「で、でも大画面で見るのがアメフトってのがいいんじゃん。迫力ヤバイらしいぞ」

「そうかもね。私もさすがにアメフトは詳しくないけど、見たらハマるかも」

「お、唯も星井の家に見に行くか?」

 思いがけないチャンスだと恵太は思った。他人と関わろうとしない唯でも、その好奇心に火が付けばきっかけが掴めるかもしれない。

「え、私は行かないよ」

 膨らんだ期待は一瞬で消え失せる。唯は悪びれた様子もなく、むしろ恵太の提案を不思議に思ったようだ。

「恵太知ってるじゃん。私は恵太か竜海としか話さないって」

「なあ、それもう、やめにしようぜ」

 恵太は持っていた箸を弁当箱に置き、改まって唯を見た。吸い込まれそうなトロンとした目が、パチパチと瞬きをして止まる。

「どうしたの急に?」

 箸と弁当箱が思いの他大きな音を立てたことで、恵太は自分の中に積み重なっている不満の大きさを知った。一年近い付き合いを通して、唯のことを面白く、頭がよく、そして分かり合える存在だと認めている。不満は他に何も無いのだ。ただ一つ、生け贄になるという奇妙な理由で交友を広げようとしない以外は。ただ一つの不満だからこそ、それが理不尽でならない。

「いつまでこうしてるつもりだよ。卒業するまでずっと続ける気か?」

 唯は目を伏せ、詰まりながら答えた。

「それは、どうだろうね」

「なんだよそれ」

 恵太は荒げそうになった声を、寸でのところで押し込める。代わりに椅子にふんぞり返ったが、「くそっ」と漏れた声は止められなかった。本当は怒りに任せて迫ってしまってもいいと思っていた。なんとか留めるに至ったのは、唯が、初めて見る暗い顔をしていたからだ。「いつまで?」と聞かれたときの一瞬、こみ上げる何かを小さな体に押し隠したように見えた。

 重い沈黙が続き、二人の座っている横を通り過ぎようとした女子が、何事かと無遠慮な視線を向けてきている。

「なんだよ」

 苛立ちを隠そうともせず女子を睨むと、そそくさと去っていく。教室の人はまばらで、適当な間隔で島のようになっているグループから二人の様子に気づいた者はいないようだった。恵太は睨んだ女子が誰かに言いふらすかもしれないと頭によぎったが、それ以上考えないことにした。

「恵太」

 沈黙を破った唯は、いつの間にか目を閉じて考え込んでいたようだ。改めて目を見開いて、恵太を見据えてくる。何を言い出すのか、恵太は険しい顔のまま次の言葉を待つ。

「ダメなんだよ、私と仲良くなっちゃ」

 それは前も聞いた、と言いかけたが、禁忌に触れることのような気がして止めた。唯に似つかわしくない歯切れの悪さが、ただ事ではないと訴えかけてくる。恵太は「ああ」とうつろな相槌だけを返した。

「でも、そうだね、ごめん。恵太と竜海が困ってるだろうなあっていうのは知ってたよ」

「別に、困ってるとかじゃなくてさ」

 恵太は言いかけて、また口をつぐむ。困っているわけでないのなら、自分は何が不満なのだろう。頭のどこかで、唯にもきっと、何か理由があるのだろうと言い聞かせてきたはずなのに。

「じゃあさ、クイズしようか」

 さも名案というように、唯が手を叩いた。唐突すぎて、恵太は顔をしかめるしかできなかった。

「クイズだよ。こんな重たい空気もう嫌でしょ? 私が問題を出すの。恵太は頑張って答えてね」

 先ほどまでの気まずい時間を、唯はあっさり元通りにしようとしているようだ。恵太としても同意したいところだが、あまり簡単に切り替えられては面白くない気もする。さっきまでの思い詰めた様子は嘘だったのかと、文句を言ってしまいそうになる。

「クイズって言ってもただの遊びじゃないよ」

 不服そうな恵太の思いを見透かしてか、唯が付け足した。

「恵太が正解できたら、生け贄がどういう意味なのかヒントをあげる」

「ヒント? 答えじゃなくて?」

 思わず腰を浮かせたが、完全には納得できない提案だった。

「本当はヒントだって出したくないんだよ? でもまあ、私からできるギリギリのお詫びはそれかな。それ以上は無理。さあどうする? やる?」

 なぜだか唯の方が乗り気になり、すっかり主導権を握っているようにみえた。

「ちょっと待てよ、俺が絶対知らないような問題を出されたら勝ち目ないじゃん」

「そこはちょうどいいぐらいの問題を出すよ。さ、弁当食べながらでもいいからさ」

 促されるまま、恵太は蓋も開けていなかった弁当に手をつけた。つい数分前までは食べる気がしなかったが、今はなんとか喉を通っていく。

空腹が解決され始めることで、頭も冴えてくるのか妙案が湧いた。恵太がクイズに制限時間をつけないよう提案すると、唯はあっさり了承した。

「といっても恵太のクイズレベルが分かんないからなあ。まず、練習問題を出してみてもいい?」

 咀嚼中の口の代わりに、親指を立てて答える。恵太は、どういう問題であろうと制限時間をつけないと取り決めができた時点で自分の勝ちを確信していた。たとえ今答えが分からなくとも、スマホで検索してしまえばいい。唯は当然文句を言うだろうが、目の前でスマホに触らない限り、調べたかどうかは証明できないというのが恵太の用意したシナリオだ。そもそも、ヒントぐらいもらって当然の立場と言えるのでこの程度の不正は許されるだろう、と都合よく片づけた。

「じゃあ練習問題。地球上にはたくさんの生物がいますが、笑うことができるのは人間だけです。さて、それはなぜでしょうか」

唯は、挑戦的に人差し指を立てて笑みを作った。

「なんだそれ、哲学的な話?」

「んー、強いて言うなら、社会学?」

「全然分かんね。社会学って地理とか法律とか?」

 早々に考えることを放棄した恵太に、唯はため息をついた。

「いい? 大事なのは想像力だよ。なんでだろうって、想像するの」

「想像つってもな」

 言われた通り、恵太は腕組みをして想像してみる。人間しか笑わない理由。確かに、犬も魚も鳥も虫も笑わない。

「あ、時々笑った顔の犬とか猫がテレビに出てるじゃん」

「あれは、そんな顔に見えるだけでしょ。嬉しくて笑ったりするものを対象とするよ」

 うーん、とまた頭を捻らせる。何も出てこないので、口に卵焼きを運ぶ手が進むばかりだ。唯に負けた気がして癪だが、恵太は間違っているだろうと承知の上で解答を挙げておくことにした。

「人間が、頭がいいからとかそういうこと?」 

「残念でした」

 つまらなさそうに、唯は唇を尖らせた。

「全然わかんねえよ。正解は?」

「それは、私も知らないよ」

「はあ?」

 当たり前のように、自分が出したクイズの答えが分からないと言ってのけた相手を恵太はまじまじと見た。不適切問題を出したはずの当人は、いつものことではあるがこの程度の抗議の目では動じない。

「恵太の答えが、私が納得できるものだったら正解にしてたよ。でも、恵太の答えセンスないもん」

「クイズの答えにセンスとか意味分かんねえよ。それに、唯なんかセンスどころか答えすら無いんだろ?」

「私? 私の仮説ならあるよ。本当に合ってるか知らないだけで」

「知りたい?」と小声で言って唯がにやけるので、聞いて欲しいんだなと恵太は感じた。「どうぞ」とだけ促した。

「私が思うに、人間って伝えたいから笑うんじゃないかな」

「伝えたいから?」

 うん、と頷いた唯の口元が、薄く笑ったように見えた。時々唯が見せる、どこか寂し気で、微笑みだけ残して消えていってしまうのではと不安になる横顔。恵太はいつの間にか目を離せずにいたが、その感情を振り払うように椅子に座り直した。

「私はこんなに嬉しい、楽しいって伝えたくて笑うんだよ、きっと。こんな風に」

 明りを灯すように、唯はぱっと笑って見せた。

「ね、楽しい」

 なるほど、楽しそうだ。と、納得しかけたが負けじと恵太も反論する。

「でも、愛想笑いとかだってあるだろ。笑いたくなくても笑ったりとか」

「それは、本来の目的から外れちゃった悲しい技だよ。人間が嘘をつくようになって、そんな間違ったやり方もできるようになってしまったってこと」

「そんなの唯が勝手に言ってるだけだろ」

 言いながらも、唯の手馴れているかのような切り返しに負けそうになる。実際、唯はこんな毒にも薬にもならないような議論を、自分の中で繰り返しているのではないだろうか。そう思うと敵う気がせず、恵太は付け焼刃の返答を止め、絶対の審判に助けを求めることにした。

「じゃあ、唯の答えが合ってるか検索してみるぞ」

「検索しても、答えは出ないよ。いろいろ説はあるけど、何が一番正しいかは確かめようがないことだし」

「なんだよ、そんなのクイズになってねえよ」

 今にも画面に触るところだったスマホを、恵太は机の上に軽く放った。

「だって、調べてすぐ分かっちゃうようなクイズじゃ不正し放題じゃん。確かに答えがはっきりある訳じゃないけど、言ったでしょ? 想像力が大事って。恵太の考えた答えがなるほど、と思うものならちゃんと正解にするよ」

 自分で手放したスマホを取り直し、恵太は恨めしく画面に目を落とした。妙案と思い編み出した必勝法など、軽く先回りをされていたということだ。唯にはどんな時も、恵太の一歩先、二歩先を歩いていると思わされることがある。

「まあ今のは練習問題だからさ。ここからが本番だよ」

 納得していない、と顔をしかめる恵太に構うことなく、唯は次の問題を進めようとしている。

「と言っても、今の感じじゃかなりレベルを落とさないとアンフェアかな。恵太、結構クイズレベル低いって分かっちゃったからね」

「うるせえよ」

 ようやく恵太は一言返して、手を止めていた弁当を再び食べ始めた。二問目を出そうとああでもない、こうでもないと、唯が頭の中で思案している声はだだ漏れになっている。

現れては泡のように消える呟きを背に、恵太は唯の問いについて考えた。気持ちを伝えたいから笑う? 正しいような気もするし、全く的外れなような気もする。そもそも、疑問に感じたことが無いテーマだ。

一体、唯はどこからこういう視点に行き着くのだろう。毎日大量の本を読みすぎると、世の中が人とは違って見えてくるのか。いつか、人の頭の中を図解できる技術が可能になったら、唯の頭の中を真っ先に見てみたいと思う。

「よし、決めたよ。これから出す問題が本番」

 唯が恵太の肩を軽く叩き、注目を促した。キリ良く弁当も空になったことで、恵太は勝負に臨む態勢が整った気がした。

「よし、簡単なの来い」

 力強く、手加減を要求。唯は「だいぶレベルを下げたよ」と苦笑いしながら出題へ入った。

「では問題。世界で最初の直線はどうやって作られたでしょう?」

「世界で最初の直線?」

 聞きなれない組み合わせの言葉に、恵太は気の抜けた復唱をするしかできなかった。

「そう。人類がどうやって直線を作り出したかだよ。例えば地面に線を引くだけでもいいけど、どうやって昔の人は直線を引いたのか、それを考えて答えるという簡単な問題」

 唯の言外に「ね、簡単でしょ?」と念押しの意図が伝わってくるので、恵太はつられて口を開いた。

「そりゃ、定規は無いからまっすぐに切った木を使ったりして」

 言いながら、的外れな答えだと気づく。この答えでは、まっすぐに切った木はどうやって用意したかと言われてしまうだろう。唯が今にも口を挟みたそうだったので、恵太はその隙を与えないよう言葉を続けることにした。

「木をまっすぐに切るには、当然まっすぐな物が必要だから、他のまっすぐな物を当てたんだろ。例えば、腕、とか」

「それが答えでいい?」

 余裕がありますとアピールしたげに、唯が声を浮つかせている。不正解であることは、唯の態度からも明らかなうえ、恵太も腕が正解では納得がいかないぐらいだ。どの部分をどの角度から見たって、人間の腕や足は緩やかに曲線が混ざっている。

「待てって、今のは仮説だろ」

 ひとまず答えを取り下げて、他の案を考えた。まだ定規も無いような時代だから、恐らくかなり古代のこと。当時でまっすぐな物と言えば、土器などがありそうだが、その土器をまっすぐにした方法が分からない。そうなるとやはり自然にあったものだろう。貝殻、動物の死骸、石、考えたがどれもそうそう完全な直線と呼べるものがあるようには思えなかった。

「ヒントをあげるなら」

 と、唯が前触れもなく言うので恵太の推理は途切れた。「腕とかって考えは悪くなかったかもね。人の体を使っても可能だよ」

 自分からヒントを出して、なお余裕の表情を変えない唯に、恵太は一つの疑問が浮かんだ。 

「なあ、ヒントまでくれるぐらいなら、俺の質問の答えを教えてくれよ」

「なんのことだっけ?」

 目を見開いて、唯は分かりやすくとぼけて見せた。恵太は、苛立っていると思われないよう、唯に呆れている時のいつもの口調で言った。

「お前な、分かってんだろ? さっきまで俺が訊いてたことだよ」

 恵太が横目で周囲を見渡すと、教室の中は食事を終えたクラスメイトがまばらに出入りしていた。一旦荷物を置きに来ただけの奴もいれば、机に伏したまま動かない奴、誰かの席の周りに集まって談笑を始めるグループなどほぼお決まりの流れだ。二人が話している内容は、よほど注意深く聞かないと周りには聞かれないだろう。それでも恵太は、再度あの質問を口にすることが憚られた。なぜ、唯は恵太と竜海としか話さないか。仲良くなってはいけないとはどういうことなのか。そんな非現実的な質問を誰かに聞かれたら、三人まとめて異端分子として扱われるような気がして息苦しかった。

「これはね、賭けなの」

 突然、唯がため息とともに口を開いた。観念したとでも言いたげに、力なく作り笑いをしたように見えた。

「私にも、どうしたらいいか分からないんだよ。だから、神様に任せることにしたの。恵太が答えられたら、少しぐらい教えてもいいかなって」

「俺が答えられなかったら、賭けは唯の勝ちってことか?」

「それは、どうかな。誰が勝つとかって話より。そういうことをしてみたかったのかも」

 唯の説明は要領を得ない。唯が隠しているものが何なのか想像もつかないが、唯が神様という言葉を使ったことの違和感が残っている。恵太が知っている唯は、理屈っぽさが時々面倒になるぐらい理詰めで物事を決める奴だ。神頼みという選択は、あまり似合わない気がした。抗えない何かが唯の背後にある気がして、恵太はそれ以上かけるべき言葉を見つけられなかった。

「分かったよ、クイズに答えりゃいいんだろ」

 頷く唯が、ホッと気を緩めるのが分かる。恵太が再度、直線の疑問解決に頭を巡らせ始めた矢先。唯の肩越しに、無表情でこちらへ手を振る人影を見つけた。教室の入り口に結界でもあるかのように体は廊下に残し、顔と手だけが乗り出している。全く歓迎できない相手とタイミング。誰が見ても恵太へ向けられている視線を無視するわけにもいかず、渋々恵太は人影の方へ迎え出た。

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