第13話 From now on(13)

「今日は仕事です、」


有吏はそう答えた。



「仕事? 例の銀座のクラブ、土曜日もなの?」


南がおかずを取り分けながら言った。



「いえ。 前の店は週に5日だったんですけど。 今は4日でよくなって。 月曜と土日は休みなんです。 でも、姉ちゃん時間もったいないって言って他にもバイトしてるから、」



「まだファミレスのバイトしてるのか?」


斯波が言った。



「ファミレスは時給が安いって言って辞めちゃって。 イベントコンパニオンとか。」



「イベントコンパニオン?? またそんな身体を張るような仕事を、」


志藤も少し心配した。



「おれも前の店と給料も変わらないし、そこまでしなくてもいいんじゃないのって言ったんですけど。 なんかきかなくて。 家でのんびりするのがもったいないって思っちゃうみたいなんです、」



彼女がどれだけ働きづめできたのか


みんな想像してしまい、押し黙ってしまった。



それを察した有吏は



「でも。 前の店よりも上がるのが早くなって。 前は帰ってくるのがもう・・4時5時でしたけど、今は2時くらいには戻れるし。」



と、明るく言った。



「身体を壊さないか、あたしも心配なんだけど、」


萌香も言った。




結城は黙ってつまみを食べていた。




「早く戻れたら寄らせてもらうって言ってました、」


有吏はニッコリ笑った。



「心配するだけで。 結局部外者やしな。 おれらは、」


志藤の言う意味が何となくみんなに伝わった。



彼女の負った借金を肩代わりすることなんかできないし、一生懸命に働く彼女を見守るしかできない。





有吏が追加のビールを買いに行っている間も、何となく瀬能姉弟の話になってしまった。


「借金、どんだけ大変なんやろ。」


南が言うと、



「わからへんけど。 そうとうやと思う。 利子だってばかにならないやろし。 彼女、一日でも早く返したい言うてたしな。 ほんま借金返せる頃になったら・・婚期とか逃してしまうんやないかって心配やな、」


志藤はタバコの煙をふうっと吐いた。


「彼氏とかいないんですかね?」


夏希の言葉に



「・・前に。 つきあってた男いたんだけど。 両親が死んで、彼女に借金と未成年の弟が遺されたことを知って。  ダメになったらしい、」


斯波がボソっと言った。


「え、」


結城は彼を見た。


「え~、そんなのかわいそう、」


夏希は同情した。



「借金と弟つきの女なんか誰ももらってくれないって。 笑ってたけど。」


「それだって。 別にあゆみちゃんが作った借金やないし。 ほんまに文句言わずによう頑張ってる、」


南はため息をついた。



「・・隣も。 別にリフォームは当分いいからあの人たちに住んでもらってもいいって・・清四郎さんと話をしていたんです。 そのくらいしか協力できないし、」


萌香が言った。




「ユーリ、遅いなあ。 金足りたのかな、」


結城は立ち上がって、そっと出て行った。



マンションのエントランスを出ると、



「あ・・」



ちょうどあゆみが帰って来た。



「・・おかえり。」



結城はニッコリ笑った。



「この前は。 どうも・・」


あゆみはペコリとお辞儀をした。



「いや。 今日は斯波さんの家に呼ばれて。 みんなで飲んでたんだ、」



「ああ、ユーリが言ってました。 あたしにも来ないかって、」


はにかむように笑った。



「今日は・・仕事だったんだって?」



「ええ。 お台場でイベントあって。 そこでコンパニオンを。 立ちっ放しで疲れちゃって、」


その笑顔が


ものすごく心に染みた。


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