第12話 From now on(12)

そして土曜日になり。



「ああ、栗栖さんは座っててください。 あたし全部やりますから!」


夏希は張り切って斯波の家に行き、飲み会の準備を始めた。



「加瀬さんが全部やるのが心配なんじゃない、」


萌香は笑った。



「なんかまたおなか大きくなったみたい、」


真緒は萌香のおなかを見て言う。



「さすがに重くなってきて。 立ち上がるのもたいへん、」



「も~、楽しみ~。 赤ちゃん生まれるの! ほんとあたし毎日来て手伝ってもいいです!」


夏希の張り切りように、



「なに言うてるの。 あなただってもう結婚するのよ。自分たちのことだけで大変なんだから。」


萌香はグラスを取り出しながら言う。



「別に変わりませんって! ほんと隆ちゃん忙しくって、休みとかもあんまりないし。 今日も仕事で来れないし、」


夏希がそれを受け取って運ぼうとすると、



「おいっ! ぞんざいに扱うな! そのグラス高いんだからっ!」



斯波がリビングから飛んできた。


「シツレイな。 グラスくらい運べますよ、」


夏希はムッとしながらそれをリビングのテーブルに運ぶが、トレイを乱暴に置いたため


ガチャン、という音が立ってしまった。


「だからっ! そういうトコが雑なんだっ!」


斯波は彼女の頭を後ろから叩いた。



「痛いなァ・・もう、」



ここにこんなに大勢の人を呼ぶこと自体初めてで、斯波は落ち着かなかった。


とにかく萌香と暮らすようになるまではずっと一人だったし、彼女といるようになっても物静かな空気は変わらなかった。



夏希が出入りするようになり、少しは騒がしくなったものの・・



「萌ちゃーん。 いろいろ買ってきたよ。 これで何か作るから。」


南が買い物から戻ってきた。


「あ、すみません。 なんだかお客様なのに色々やってもらってしまって、」


「う~~、重い・・」


ビールや酒を持たされた有吏はへとへとだった。


「若いくせになによ。 ほら、早く冷蔵庫に入れて!」


「ハイハイ・・」




玉田も志藤もやって来た。



「あとは結城だけかァ。 ヤツ、来るのかなあ・・」


南は時計を見た。



「結城はマイペースですから。 そのうち来ますよ。 外出から直接って言ってたし、」


玉田は笑った。



「もう料理もできちゃったし。 とりあえず乾杯しよっか、」


と、南が言った時


インターホンが鳴った。





「も~~、意味わからへん。 遅れてきてさあ。 なにこの紙袋は・・」


南は結城の持ってきた紙袋を見て言った。


「え、ちょっと服買いたかったんで。」


シレっとして言われて、



「時間は守りなさいよ。 んで、手ぶらやし! 人んち来るのに!」


「ああ・・思いつきませんでした。」



まったく悪びれない結城に萌香はクスっと笑って、



「おかまいなく。 さ、結城さんもどうぞ。」


と彼をエスコートすると



「・・いつも会社で見る時はキリっとしてますけど、普段の感じもステキですね。  後姿だけだったら妊婦だなんて思えなくてナンパされそうですね、」


結城はニッコリ笑って言った。



「もう・・病気?」


みんな呆れて、言葉が出なかった。




みんなでわいわい飲んでいると、南が突然


「あ、ユーリ。 あゆみちゃんは? 呼んで来れば?」



と言い出した。


「あゆみちゃんて?」


結城が言うと、



「瀬能くんのお姉さんです、」


萌香が説明した。



そのとき少しだけ彼が緊張したのには誰も気づかなかった。

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