第14話 From now on(14)

「・・メール。 待ってたのに。」



結城はポツリとあゆみに言った。



「え、」



中に入って行こうとした彼女は足を止めた。



「普通。 ああやって携帯番号とアドレス渡したら。 『連絡ちょうだい』って意味だろ?」



結城はふっと笑った。



「えっ・・」



あゆみは一気に赤面してしまった。



「あ、ああいうのは・・。 挨拶代わりっていうか。 社交辞令っていうか。 そういうもんだと思ってましたから、」



髪をかきあげて言い訳をした。



は・・



結城はその言い分に気が抜けた。



「慣れてる男の人は・・とりあえず、使ってくるテですから、」




・・・・・・




結城は恥ずかしそうにそう言う彼女に半ば呆然とした。




「あ、別に! ユーリの先輩ですし、あんまシツレイがないようにって思ってましたけど! すみません、」



あゆみは逃げるようにそこから立ち去ってしまった。





しばらくそこにボーっと立ちつくしてしまった。



胸が痛かった。



普通のあの年頃の女の子なら。



もっともっと素直に隙を作ってくれるのに。



だけど



水商売が長かった彼女にとっては、そんなことをしてくる男なんてめちゃくちゃいたはずだし。



おれのこの行為だって



普通の客と同じように取られたってしょうがない。



いや。



メアドを教えるなんてことよりも、スケベな気持ちで言い寄る男だっていたはずだ。



そういうのもわかっててやり過ごせる。


それがなんだか悲しいよな・・




今までこのテでかかってこない女の子なんかいなかった。



彼女はもう


全ての自分の気持ちを押し込めることが普通になってしまったのかもしれない。



恋だとか


愛だとか。



そういう感情にきっちりと蓋をしてしまっている。




しばらくして有吏がまたも缶ビールがたくさん入った袋を両手に持って現れた。



「・・おせーな。 どこまで行ってたんだよ、」


結城はそのひとつを持ってやった。



「もー、そこのコンビニもなんかビールなくなっちゃって! もうひとつのトコまで行って。 ウチだけで買い尽くしちゃったみたいな? あ~~、重かった・・」



真っ赤になった手を見せた。


「しょうがねえな。 下っ端のバイトだから、」


結城はふっと笑った。


二人はエレベーターに乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る