少女の再会と智の町への潜入 1
当惑する少女の前に姿を現し、まずはと「
この選別の
その空気を破ったのは、ニクラの「で?」のひと言である。不機嫌を露わにした顔のまま、語気強く発せられた言葉だった。
「……『で』? 『で』とは――」
「こちらの方はどういった顔見知りなんですかね、明良くん?」
「なにを
「何も苛ついてやしないよ。ただ、選別にかける前に、私のいいつけを破ってまで姿を見せるからには、よほどの『仲良しさん』なんだと思ってご紹介願ってるのよ!」
「やはり苛ついてるじゃないか……」
眉根をひそめつつ、明良は、「リ・ミンミだ」と旧知の少女を紹介した。
だが、その紹介された人物もなにやら様子がおかしい。いつも見ていた白
「ミンミも……、なんだ、その顔……?」
「あんまりだね。ホント、あんまりだよね」
「あんまり……?」
「こっちは約束守って、この家、それなりに綺麗に保ってたのにさ。そこにお礼のひとつもしないで、久しぶりの再会に喜びを分かち合うカンジもなくて、いきなり『よきヒト』を見せつけてくるなんて……。いつのまにこんなに混沌としちゃったのかな、この少年は!」
ミンミのこの言葉に、ピクンと大きな反応を見せるのは、明良よりもむしろニクラのほうだった。
「ちょっと……それは聞き捨てならないね」
「……何よ」
「誰がこんな
「『よきヒト』じゃなかったら、なんなのかな?! あ~ッ、判った。行きずりだ。ヒトがせっせと綺麗にしてたこの家、
「な……、なんて馬鹿なことを言う、この下品女!」
「下品はそっちでしょ、チビ女!」
耳もふさぎたくなるような
明良は、ミンミの両肩をがっしと掴み、その顔を食い入るようにのぞきこむ。
「すまなかった、ミンミ。俺たちが本当に用があるのは
「ちょ……近い……」
「逢引茶屋というものがなんだか知らんが、この小屋にはひとまず寄ってみただけだ。ギアガンやこの家のこと、長いあいだ世話をかけてすまなかった。ありがとう」
「うん……。もういい、もういいって……」
「希畔は今、大騒ぎと聞いていたが、ミンミに大事なく、元気そうで嬉しかったぞ」
「判ったから……、少し、離してくれないかな」
どうやら落ち着いたらしいミンミに続いて、明良は、背後のニクラへと向き直る――のだが、
「ニクラ……。お前ともあろう者が、何をしている?」
「……」
「こっちを向け、ニクラ」
「ッ?」
少年は、相手の両頬をつまむようにすると、自分のほうにグイと向けさせる。正対した大きな瞳には、当惑のような、敵意のような、懇願のような、まさしく混沌とした
「俺たちはこんな騒ぎを起こしている場合じゃない。そうだろう? どうしたんだ、いったい……」
「う……」
「ミンミは争うような相手ではない。『分つ環選別』で問題なかったのは、お前も認めていただろう?」
「判ったから、これ。このはさむの、やめてよ……」
どうにかこうにか場を鎮めた明良は、ふたりを座らせると、今度はミンミに対し、ニクラの紹介をした。すると、ニクラを
「もしかすると、ニクラって……、
「……どの『ロ・ニクラ様』のことを言っているのか知らないけど、ひとまず私はロ・ニクラで間違いないよ」
「ひぇ……、す、すみませんでした!」
ミンミは、板張りの床に額をこすりつけんばかり、平身低頭の格好になってしまった。
「ど、どうしたんだ、ミンミ……? お前、急に……」
「いやいやいや、『ロ・ニクラ様』といったらラ行
嫌な予感がして、明良はニクラの様子を
案の定、少女の顔つきは、またひと波乱起こしそうな様子に変わっていく。
「あぁあ、私、なんて失礼なコトを……。どうかお許しください! ひらに~、ひらに~……」
「いらん! ロ・ニクラ様は寛大なお方だ! むしろミンミのその態度がニクラ様の
どうにかしてミンミの陳謝をやめさせても、場の雰囲気はむしろ当初よりも混然とし、気まずいものとなって流れる。
明良は、何ひとつ進んでいないのにどっと疲れを感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます