不穏な招聘状と彼らの決断 3
冬の陽光下、
美名らの一行は、三人とふたりといった形、お互いに向かい合っていた。
「
横に並ぶグンカに訊ねられ、少年ふたりはうなずいて返す。いずれも旅装。防寒のために着込んだ三人である。
続けてグンカは、見送る格好のふたりへと目を移した。
「美名大師。感謝も尽くさぬままに離れる非礼、ご容赦ください」
「また……。グンカ様、もうそれは止めてくださいと何度も言ってるじゃないですか……」
「ですが……」
「グンカ様に向かって偉そうに言うみたいですけど、これからです。これから、もっと気を引き締めなきゃならない正念場です。遠く離れてしまいますけど、私の心は、グンカ様や、明良、ヤヨイさん、クミやフクシロ様……。みんなと一緒です。お互い、魔名を響かせましょう。悪党に目にもの見せてやりましょう」
「『
届けられた書状の裏をそう読んだ美名たちは、この件について教会本部と連絡をとり、方針を定めた。
だが、連絡を交わすうち、一概に希畔だけに戦力を注ぐことはできないとの見解も出てきた。魔名教典内の逸話、「
しかしそれでも、明良の読みを教主フクシロは重く考えたようで、今のところ、希畔防衛の比重を高くする見込みである。
さて、それでは美名ら一行も揃って希畔に向かうかというと、そうもできない理由があった。前述のとおり、レイドログから送られてきた挑戦状の存在である。
「環季節」の日、
今の段階では、これが陽動のための虚言とも、真実の呼び出しとも判断はつきかねる。だが、見過すことをして、もしも「蟲憑き」が
では、誰が、どうやって――。
『私が残ります』
名乗りを上げたのは、美名だった。
『みんなは
静まり返る一同のなか、まっさきに声を上げたのは明良だった。
『馬鹿を言うな! ひとりで残り、万が一でもあれば――』
『信じて、明良』
『なっ……』
『私、確信があるの。レイドログが来るとしたら、必ず、ひとりで来る。アイツには友だちや仲間なんて、ひとりもいない。どうしてだか、私にこだわってる……。私を仲間にしたがってる。脅しを実行させないためには、私だけでも呼び出しの時間、呼び出された場所にいないとダメだと思う……」
『ならば、俺も――』
『明良には、託したいことがあるの』
『託す……?』
『クミのことよ。クミやリィちゃん、タイバ様のこと』
『……』
『バリ様が占ってくださったけど、まだちゃんと無事だって判ったわけじゃない。でも、それを明良が確かめてくれるなら、私も安心できる。明良に任せたんだって思えたなら、怯えることもない。そんなふうに思えるの。だからお願い。私の代わりにクミを助けてあげて。希畔の町を守って。私は、ここに残って私がするべきことをするわ』
少年は、わだかまりを少し残した様子ながら、結局は首を縦に振っていた。
戦力の配分でいえば、美名の提案は妥当でもある。しかし、この提案もそのままそのとおりになったわけではない。
こうして、「環季節襲撃」は、大きくはふた組で対策する方針となった。
まずは、美名とバリのレイドログ対策組。
当然、ふたりだけということはない。
そして、魔名教会本部を柱とした、
いずれにしても
狙うは、「二大陸同刻決戦」。そして、「勝利」――。
「美名さん……。無理だけはしないでくださいね」
ヤヨイに心配げに言われた少女は、えくぼを浮かべて返す。
「ダイジョブです。バリ様もいらっしゃるから、少しも負ける気なんてしません。ヤヨイさんも薬のこと、お願いしますね。アサカ様は気難しいヒトですけど、とっても素敵で立派なお方でしたから」
「……はい。精一杯、お助けしてきます」
それから美名は、黒髪の少年に顔を向けた。
他の者らが激励を交わすあいだもずっと、明良は、もの言いたげな顔で少女を直視するばかりであったのだ。
「明良……。クミたちのこと、お願いね。ちゃんと持ってる?」
少女は、手に持った黒ネコの
少年も、ゴソゴソと取り出した白ネコの根付を同じように揺らした。
「ナコちゃんを私だと思って。私も、ヒコくんを大事にする。きっと、この二匹のネコも、たった十数日もすればなんでもなかったみたいに……、すぐに再会できるわ」
「……ああ。負けるなよ、美名」
「明良もね」
「バリ、頼んだぞ」
「いいのかい?
「……うるさい」
加護の言葉に送り出され、グンカとヤヨイ、明良の一行は、ひとつめの目的地、ヤマヒトに向け、東の空へと飛んでいく。
少女は、三人の姿が見えなくなってからバリに向き直った。
「
「そうしよう。もうすぐ夕闇が来る。これから数日、各地の守衛手との段どりのために移動するときは、姿が発見されづらい夜が基本になっていくよ」
「では、その数日……。合間で体力が残っているときで構いません。お時間をいただけますか?」
「……なにをする気だい?」
「刀を指南していただきたいのです」
「……貪欲だね。ヒトに教えたことはないけど、それでいいなら」
「はい! ありがとうございます!」
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