不穏な招聘状と彼らの決断 1
「どうだ、グンカ師は?」
入るなり、
部屋の
「ヤヨイは? 姿が見えないが……」
「隣。少し休んでもらってる。出てく前、
「そうか……。覆いは?」
「たぶん、つけなくてもダイジョブ。私ももうしてないし、ヤヨイさんもうなずいてくれたわ。グンカ様が起きたとき、覆いをつけた私たちに取り囲まれてたら、びっくりするでしょ」
少年が歩み入ってきたので、美名は立ちあがり、横へと
椅子を挟んでの無言の時間が、思ったよりも長い。微動だにしない少年は、思い詰めたような顔を続けていた。
(どうかしたのかな、明良……)
居心地の悪ささえ感じ始めた美名は、なにか話したほうがいいかな、と話題を探しはじめる。
クミやニクリ、タイバのことを話そうか。彼らが今、どうしているか。「向かっている場所」とはどこなのか、その移動の目的とは。明良ならなにかしらの憶測をつけているかもしれない。だが、あまり話し込むような内容だとグンカの介助にも障りが出る。なにかとりとめもない、他愛ない話題で別のものを――と考えたところで、美名はふと、あることを思い出した。
つい先ほどバリの口から聞いたばかり、「ローファ」である。数日前、明良とも話した覚えのある名前だ。どうやら、ふたりに共通する知り合いであるらしい。以前の明良とのやりとりでは、自ら「話を聞かせて」と言った覚えもあった。
グンカが目覚めるまでのこの
美名は、その「ローファ」なる人物に興味が湧いた。
(うん、聞いてみよう)
だが、美名が口を開きかけた矢先、部屋の戸がコンと鳴らされた。
「三人とも、いるかい?」
外にいるのは、バリのようだった。
「広間に来てほしい。すぐにだ」
口早に言ってから、廊下を渡る足音が響く。おそらく、呼び出しだけをかけ、すぐに引き返していったのだろう。
美名と明良は、思わず顔を見合わせた。
バリの性急な声音、戸板さえ開かずに急いだ様子。なにかしら、嫌な予感をふたりともが感じ取っていた。
「私、ヤヨイさんを……」
「いや……、せっかく休んでいるところを邪魔するまでもないかもしれん。ひとまず、俺たちだけで戻ろう」
「うん。あ、じゃあ……、一応、グンカ様が起きたとき、誰もいないと混乱するだろうから、書き置きだけするわ」
「判った。先に行っている」
*
『
和・美名様
雑魚瑣末
艱難辛苦の砌、苦心苦慮を御察し奉る。
此度、栄華ワ行劫奪大師に慶福の路への御同道を賜りたく、上申の次第にて。ついては会合の機を設けし委細、御報せ奉る。
翌々従い日 環季節 亥の刻
新白鳥古城跡
寒中に蟲蔓延るも、努々この逢合わせの機、失する莫れ。
タ行使役末席 ト・レイドログ親書
』
*
居室に揃った者――バリ、明良、美名、そして、この
明良は一見して怒りも露わな顔色に様変わりしたが、美名は二、三度と目を通しても、なお判然としない様子である。
「すみません、ちょっと……。難しい漢字や言葉が多くて……」
「でも、だいたいは意味が判るだろう?」
バリに言われて、美名はふたたび、紙きれを眺め下ろす。
「レイドログが、次の次の
「そう。それも
手を伸ばしたバリが、文面上、「寒中に蟲」の部分を指差す。
「蟲」――美名は、ハッとしてバリを見返した。
ギリギリと歯噛みする明良が、「これは挑戦状だ」と吐き出すように言った。
「……挑戦状?」
「形式は、なまじ
美名は、明良の怒り心頭の様子から目を戻す。
卓上にポツンと一枚、置かれた紙。今やそれも、禍々しい瘴気を発する異物のよう、錯覚できるのだった。
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