嵩ね刀と幾旅金 3
弧を描いて追撃が迫る――。
「くっ、ワ行ッ!!」
少女は
だが、それも
しかし、闘志
「まだぁッ!」
「上々だ!」
ふたたび、少女と少年の真っ向からの激突。
今度は
真剣同士での数多い打ち合いなど、幼い頃の美名と先生のように、どちらか一方の別格で弱小者に合わせてやっているのでなければ、本来、あることではない。
だが、今、この場において、優劣の差などかけらもなかった。まったくの互角なのである。
この短いあいだにお互いを高め合ったふたりは、何者をも寄せ付けない
「らぁあぁっ!!」
「うぉおぉッ!!」
刃のぶつかる音が、雪より
間合いを詰める様子でもないのに、なにかの不可思議な力に引かれるかのよう、ふたりの距離が徐々に
美名と明良は、ただただ刀を振り続けた。
それから、悠に四半刻近くは経った頃だろうか。
無限に続くかに見えた
体力の限界である。
(これが!)
(最後か!)
終局を自覚したふたりは、まったく同時に大きな振りかぶりを見せた――。
「
「
カァン
最後の一撃もやはり互角。
一瞬だけ、その交わりを
「――ッ」
受け身も取れずに倒れ込んだ先は、柔らかい雪のうえ。幸いにも、どこかしらをぶつける憂き目には遭わずに済んだ。
上下逆さま、向き合う格好となったふたり。
息遣いが白煙となって昇り、少女は「ふふ」と力なく笑う。
「すぐには……立てそうもないや……」
「……俺もだ」
相手の上気した顔が、限りなく近い。
お互いに気恥ずかしくはあっても、疲れのために背けることもできず、見つめ合うしかない。
「……俺は……」
「ン?」
「こんなこと言うのは……、不謹慎なのは承知しているが……楽しかった」
「……ふふ。なら、
美名も明良も、組み稽古に際して目的にしたこと――「決闘に備え、覚悟を決める」――この達成はもとより、それ以上のものを得られた実感がある。
その実感と、降り積もる雪と、
そして、目の前の「よきヒト」。
少年少女にとり、静かな
「雪……」
「雪?」
「うん。雪」
相手が何を言いたいのか測りかねる明良は、瞬きをする。
「ホントは……、こういう雪を、明良とクミと……、ふたりといっしょに……見たかったんだけど」
ようやく明良は、美名との連絡に使っていた
「年の初めに明良とクミとで、ふわふわと降ってくる雪を眺められたら」――。
「……願いが叶ったうちに入らないのか? 今は」
「うん。今は……、違うね」
「そうか……。年明けはまだだし……、クミもいないな」
「そうじゃなくて……、今、私は……。私の目には……」
言いかけた美名だったが、ふいにハッとすると、途端に険しい表情になる。
「……どうした?」
「なにか近づいてきてる……」
「なに?」
「たぶん、馬……」
カツカツとゆっくり、規則的な音が響いてくる――。
「……よもやとは思うが、悪逆どもじゃないだろうな」
「そんな……。今はまともに動けそうもないのに……」
なんとか立ち上がろうとするも、ほんの少し上体が動いた程度。こんな状態で襲撃に遭えば、ひとたまりもない。
だが、ふたりの心配は
「お前ら、なにしてんだ?」
たしなめるような声は、美名も明良もおおいに聞き知ったゲイルのもの。どうやら、薬の材料集めからメルララといっしょに戻ってきたところらしい。
「いったい、なにがあったんですか?!」
ゲイルに先駆けて馬を降り、駆け寄ってきたメルララが、美名を抱き起す。
「あはは……。ちょっと、やりすぎちゃって……」
「……とにかく、こんなところで寝ていては体調を崩してしまいます。ゲイルさんは、明良さんをお願いしますね」
そう頼んだメルララは、美名に肩を貸して援けてやりながら、アサカの居宅へと向かっていった。
一方、明良は、旧友からの介抱を得られず、探るような目つきで見下ろされている。
「いい度胸してるな」
「……どういうことだ、ゲイル?」
「お前……。こんな雪降りのなか、美名ちゃんと仲良く寝転んで……。言ったよな? 稽古に励むのはいいが、おかしなコトはするなよって!」
「……とりあえず、俺も運んでもらえると助かるんだが」
鼻息を荒くするゲイルは、乱暴に腕だけを
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