遺物の保管庫と針が示す先 7
「勇士ベリルが遺した一切のみ、通過を許可します」
「
服はもちろん、保安手ベリルが
これで、選別が済んだわけである。
(お願い……。返り血、残ってて!)
セレノアスール、ヨツホ、そして、目の前で棺に眠る者たち――。
たった数日のあいだに
当然、皆も同じ気持ちであろう。場の視線は、輪の境界面、衣服が通り抜けていった箇所に集められた――。
「あ、あったのん!」
はじめに歓声を上げたのは、ロ・ニクリ。彼女の平手が薄く光っているから、
フクシロの肩の上、ネコも目を
「よぉ~し! フクシロ様、もう少し、そのままでお願いします!」
「分つ環」の境界面にぴょんと降り立ったクミは、まるで、空中を散歩するように歩んでいく。そうして間近まで来てみると、赤黒い砂粒は、どうやら目的のモノで間違いない様子。決して多くない量だが、賊徒の返り血は、確かに残されていたのだ。
「ラァ。この『
「できるだけ埃やらゴミやらは選り分けて入れればいいのね?」
「うん」
「こんなにカラカラ、パラパラな状態でもいいの?」
「たぶんダイジョブ。駄目だったら、入れたあと、ナ行の魔名術を使ってもらって、液体に戻せばいいわ」
クミから「指針釦」を受け取ったニクラは、乾いた血の粒をひとつまみすると、遺物の
「これで、ログちんやキョライさんが見つけられるのん!」
賊徒に繋がる手がかりをいよいよ得られたと意気上がり、「指針釦」の盤面のうえ、顔を寄せ合う一同であった――が。
「なに、コレ……?」
遺物は、彼女たちの期待に応えてはくれなかった。
青く発光する盤面のなか、針は、フラフラと揺れ動いているのだ。
「ちょっと、ラァ。しっかり持ってる? 手、震えてない?」
「震えてないよ。ちゃんと持ってる」
「だとしたら、コレって……どういうこと?」
「
そこで、クミは、「あ」と気が付いた。
「発光色は変化するものの、針が回転する」状態は、対象が「何処か」にいることを示す。明良の探索行や「烽火」の一連を経て、新しく発見された「指針釦」の性質である。方角を正確に知ることはできないが、物理的に術者に近づけば、発光の色味が変化していく。明良は、その変化を頼りにし、
クミは、そのことを、皆に端的に語って聞かせた。
「じゃあこれは、この血の持ち主が、今、『何処か』にいるってことかな? 死亡しているわけじゃなく?」
「真っ青よりかは少し明るいカンジだから、たぶん、そうだと思う……けど……」
「けど?」
ネコの歯切れの悪い言葉を、ニクラは、少し苛立ったように繰り返す。
「『けど』、なんなの?」
「これって、回ってるってカンジじゃないよね?」
手のなかの遺物にさらに顔を近づけたニクラは、そのまましばらく黙って眺めたあと、「確かに」と零した。
「……
「そうそう。クルクル回ってるっていうよりは、メトロノームみたいな動きよね」
「また神世の言葉を使う……。『めとろのおむ』を知らないから頷けないよ」
顔を離したニクラに続き、ニクリや保安手らも「指針釦」を覗き込んだ。
そうして、「針は回転しているのではなく振り動いているようだ」と、皆の感想が一致する。
「でも、なんでこんな変な動きになってるんだろ……」
「『何処か』が関係しているのかもしれないね」
「これだと、ログちんやキョライさんが見つけられないのん? 手がかりが無駄になったのん?」
ニクリの言葉に「無駄ではありませんよ」と優しく返すのは、教主フクシロ。
そこで、ネコは、彼女が長らく「分つ環」を持ったままの体勢であり、それは自身が境界面に乗っているせいだと気付いて、ニクリの肩へと飛び移った。
ようやく「分つ環」を下ろすことのできたフクシロは、「指針釦」を受け取ると、それを持って休憩所のなかを歩き回る。保安手のひとり――ナ行の魔名術者である――に「
「やはり、無駄になど、なっておりません。ベリルさんが遺してくださり、私たちが手にした手がかりです。先ほどの明良さんの話からすれば、色が変化するだけでも目標に向かえるとのこと。ならば、確たる前進でありましょう」
「そうだのんね……。うん、そうだのん!」
「よぉ~し、『ガツン』と一発やりかえすのに、まずは成果ありね! チーム
意気高いクミに、ニクラが
「その『ちいむ天咲』ってのも何なのよ?」
「いやいや、このメンツ、天咲塔の顔ぶれでしょ? だから、チーム天咲。『チーム』ってのは、仲間というか、集まり、みたいな意味かな?」
「……キョライのヤツは、今は完全な敵よ? 印象が悪いから、やめてほしいね」
「ふふ。ですが、不思議と一体感があってよいですね。チーム天咲ですか……」
それからの「チーム天咲」は、別に動く美名たちに「手がかりを得られた」旨、タイバ大師に「可能な限り早く
そうでなくとも、「名づけ師トジロとの面会」、「非常事態の宣布」、「(タイバ師が到着すれば)『指針釦』を頼りに捜索を開始する』――明日にもやるべきことがたくさんある。
天咲塔攻略の頃より「心身の健康が資本」を信条とする「チーム天咲」は、今晩は食事を摂り、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます