動議の場と捜索の手がかり 1
魔名教会本部の組織機構は、大きくは――「執務部」、「特務部」、「教務部」のみっつから成っている。規模に大小の差はあるが、これは各教区でも同様であり、教会が長らく維持してきた基幹構造である。
平時の教会運営において、各々の部の管轄は独立してはいるのだが、平時でない場合――昨今の新しい例でいえば、教主フクシロの変革のひとつ、「教区制廃止」などは、執務部と特務部の長、司教職、教主の四者が協議し、案を詰めるといった連携がとられるのも通例であった。
そして、今回の「平時でない事態」でも――福城の教会区内、主塔の
「――以上、お話しましたことが、
長く語ってきたフクシロがひとまず締めくくると、場には沈黙が落ちる。
この小さな内証室に、教主フクシロ、
会議開始の折、フクシロはまず、端的に以下の報告をしていた。
一、「一連の変事」とは、
続けて、以下の提議を上げている。
一、両名から大師格を剥奪。
一、両名を『
一、
一、教会本部が主導となっての、すべてに優先した両名身柄確保。
それから、ヨツホに大師連中が参集してからの
「……しかし、今までの話からすると、すべてがレイドログ大師とシアラ大師の仕業とするには、材料が乏しい気もしますが」
疑問を
「ですが、これらの多くには、無視できない共通項があります」
「共通項……?」
「はい。三大妖を使役しているという点です」
内証室の空気が、ピンと張りつめる。
「三大妖……。人々が忌避してきた、受難そのものともいえる強大なアヤカムです……。教会史を顧みるに、かつて、これらを使役したという事例がありましょうか?」
「……」
「セレノアスール、イリサワ、ヨツホ、小豊囲……。時機を同じくして、各地の人里を襲うよう、使わされたアヤカム……。同一人物が仕組んだと定めるのに、特段の反証は、いまのところありません。それをおいても、セレノアスールに関しては、レイドログ大師の関与が確定的です。彼の
「……シアラ大師の件は、いかがでしょう?」
さらに問いかけるのは、司教の補佐――副座職にある女性教会員である。
「シアラ大師の関与は、確定的と呼べるものが少ないように思えます」
「……確かに、おっしゃる通りです。小豊囲に施した『包囲陣』からの脱出。ヨツホに前触れなく現れた散雪鳥。これらは、かなりの熟達のハ行術者が関与しているやも、程度に留まるものです。この機にクミ様が目撃した人物、福城にて、『シアラ大師』を利用した遺物盗難が起きたことを合わせて考えても、推察の域を出ません」
「ですが」と顔を上げたフクシロは、クミが見上げる角度からは、少しばかり泣いているようにも見えた。
無理もないな、とネコは思う。
ヨツホに襲撃があった日、ひとまずは収拾の目途がつき、大師連中がふたたび参集した場にて、自身が何気なく言ったひとこと――「キョライさんを見かけた」。
相手の人相
確かに、聞いているかぎりは、ありえなくもないとは思えた。
だが、クミは、「ホ・シアラの悪行」を知りつくすわけではない。
一方、「キョライさんが手助けしてくれた」ことは身に染みて知っている。
それは、理詰めで考える性質のニクラからは読み取れないものの、ニクリやフクシロ――
特に、フクシロは、あの苦難の冒険を経て、キョライへの感謝の念が絶えることはなかったらしく、ひどく悲痛に暮れる様子も明らかだった。
だが――。
「ホ・シアラは、かつて、許されざる暴挙に走っております。本件にも関与が疑われる程度であっても、排除対象に判定すべき、居坂の
教主としての立場の少女は、私心を殺し、断言する。
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