霧中会見と刀傷の治癒 3
「迅速に伝令ができて助かった。ありがとう」
「いえ」
少年の謝礼に対し、
明良は、彼を通じ、イリサワに待機させていた
「では、これで失礼いたします。グンカ様」
「ああ。ともに行けずすまないが、すぐにサンイツの地での駐屯を解いてくれ」
「はい」
「教区内各地の警戒増強も、
「承知しました」
彼を見送った明良は、グンカに向き直る。
「イリサワの件、教主フクシロへの連絡は、グンカ師がしてくれたんだったな?」
「はい。先遣が着いたときにはすでにゼダンがいて近づけなかったため、子細のない、速報程度になりますが」
「詳細の報告は、イリサワに戻り、余裕があるようであれば、俺からあらためてしよう」
「大都の軍備の件も含めて、ですか?」
「……当然、伝える」
「第二教区勢による領境駐屯の解消」をとりつけた明良は、「ともにゼダンを見張る」というあらたな
「それでは我々は、待ち伏せするため、イリサワに……」
「その前にひとつ、グンカ師には頼まれてもらいたい」
少しばかり
「彼女を……、ローファを、近くの村まで送ってやってほしい」
「わ~ッ?!」
「なにそれ? 今さら、私を遠ざけようっていうの?!」
「そうだ」
「なんで、なんで?! また、さっきみたいに面白いものが観れるって心待ちにしてたのに!」
「これより先……、次の相手は危険だ。これ以上は巻き込めん」
「だって! あの村を襲った犯人のこと、明良くんは知りたいんじゃないの? まだ私、なんにも聞かれてないよ?!」
「それももういい。ローファの身に危険が及ぶかもしれないのに、いつまでも連れ回すことはできない」
「なんで~ッ!」
「彼女は、お嬢様のご親類の方でしょうか?」
「いや、俺もよくは知らんが……」
明良とグンカのふたりは、
「やはり、師の目にも似ているように見えるか?」
「似ているどころか、肌の色と
「鏡……。まるで、ニクラとニクリ大師か……。しかし、グンカ師の目からすれば、アイツとローファとでは、
少年に「いや」と返しそうになった言葉を、グンカは
(むしろ……、「
つかみどころのない、悪寒めいたものをグンカは覚えかけたが、ちょうどそのとき、少女は憤慨するように鼻を鳴らし、地べたに座り込んだ。
「私が誰かに似てるだとか、似てないとか、全部聞こえてるんだからね!」
「あぁ、そんなところに座って……。雪で尻が濡れるぞ……」
「そんなのどうだっていい! まだ一緒にいるから! いいって言うまで、動かないからね!」
(節度は……、美名お嬢様のほうが、だいぶ備わっているようだ……)
あまりに緊張感のないやりとりに、グンカが覚えかけた悪寒もどこかへ消え去っていた。
「……この方を『
「頼む」
「いやだって言ってるでしょう! 明良くんのバカ!」
悪態を惜しげもなく叫ぶローファだったが、つと、何かを思いついたような顔になった。
「私が足手まといじゃないって判れば、まだ一緒にいていいでしょう?」
少年を見据えて、少女はニヤリと笑う。
この笑い方は美名には見られないものだな、と少年は場違いな感想を抱いた。
「明良くんの左手、怪我してるね?」
「あ、ああ……。これか……?」
明良は、左の手を掲げた。
その手には人差し指と中指がない。二日前、オ・バリとの決闘時、斬撃で切断されたままである。
「そのヒトと話してるとき、私をその手で
「持っては……いるが……」
「出して」
「寄越せ」とばかりに、ローファは手を伸ばしてくる。
「どうして俺の指の話になど……」
「いいから出して!」
少女の勢いに気圧されたのか、明良は
「……酷なことを言うようですが」
少年の手元を背後からのぞきこんでいたグンカが、恐縮した様子で割り込んできた。
「これはもう、ヤ行
「やはりか」と、少年にはさして嘆く様子もない。
「慌ただしいのが続き、まともに治癒力強化も受けないまま、とりあえずはととっておいただけだ。あまり、治す気もなかった。俺の
「これのせいで美名とクミとに余計な心配をかけた」との言葉が喉元まで出かかったが、それを言っても自身の不甲斐なさを露呈するだけなので、明良は飲み込んだ。そういう意味では、この亡骸は、少年にとって、少し恥ずかしいものでもある――。
「戻せるよ」
「……なんだと?」
「私なら戻せる」
断言する少女は、当惑顔の少年にさらに手を伸ばし、「こっち来て」とえくぼを浮かべるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます