霧中会見と刀傷の治癒 2
一瞬、霧が乱れたかに見えたが、すぐにまた、周囲は前後不覚の景色に戻る。
「
「ゼダンに操られているなどといった心配なら無用だ」
少年は、相手がどこにいるとも知れないなか、ただまっすぐに白い霧を見据えた。
「俺こそ、ギアガンとヒミとに恨まれても文句が言えない立場だ。俺が、もっと早くシアラの本性を見抜いていれば、あのふたりは、魔名を返上せずに済んだかもしれない。彼らを
少年の刀を握る手が、かすかに震える。
「
「……そんなことはありません。師もヒミも私も、仇敵に
「そう言ってくれるのなら、どうか収めてほしい」
これが届かねば、ゼダンとの約束――
明良は、ここでグンカと衝突することになろうと、それだけは止めたかった。
「ギアガンとヒミと貴方と……、動力の
明良にできるのは、ただ言葉を尽くすのみだった――。
「俺のこの懇願を
差し出すように、明良は
それから、霧のなかの沈黙は長かった。
ひとりは、深く頭を垂れたまま。
ひとりは、霧のなかで息を殺し。
ひとりは、少年の背後で
息することさえ
「心気を惑わされていないのならば、どういう心情なのでしょう」
沈黙を破ったグンカの言葉。直後、かかっていた霧が瞬時に晴れた。
「明良様も、あの
「ゼダンのためではない。大都の……、
ゆっくりと顔を上げた明良は、宙に浮かぶグンカを正視する。
相手も相手で、少年の視線に真っ向から受けて立った。
「ヤツが悪辣であることは間違いない。だが、少なくとも、大都に対してだけは
「……」
「ヤツに協力しろ、とまでは言わない。俺だって、ヤツに心酔する気などありはしない。ただ、ヤツが
射るような視線を浴びる明良は、かつて、ギアガンやシアラ、そして、ゼダンと対峙した際に痛感したのと同様、身を潰されるような威圧を、この新任大師からも感じ得た。
「頼む……。グンカ師……」
「……それは、ゼダンがふたたび路を踏み外せば、踏み外そうとしたなら、あなたは、彼を
「ああ。無論だ」
明良は、頷いて返す。
動力大師は、少年の
やがて、「判りました」の声とともに、グンカが降下しだす。
「これより、コ・ギアガン門下、当代カ行動力大師を拝命するコ・グンカは、その約定を結びます」
白衣を
「私が預かる第二教区を挙げ、可能な限りの協力体制をとりましょう。しかし、それは、大都とではない。ましてや、ゼダンとでもない。我が師とヒミとを
「そ、そうか……。承服して……くれたか……」
刀を鞘に納めると、少年は、深く頭を下げた。
「……心苦しい決断をさせてしまい、すまない」
「いえ」
短く答える相手には笑みなど浮かびようもないが、もはや、霧のように充満していた敵意を、明良が感じることはない。
ひとまずは、ひとつめ。
軍備を撤回させるため、明良がゼダンと交わした約束。コ・グンカと――第二教区と大都との衝突は避けられる見通しが立った。
ともすれば、グンカ大師の戦闘能力と真っ向から対峙しなければならなかったこの場、戦禍が起こるやもしれなかったことを思えば、まだ道半ばとはいえ、少年には、安堵の息が自然に零れるのだった。
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