神衣の禁術と大師共闘 4
「プリム様は
ふたりの飛ぶ速度では、叫ばないと声が届かない。
「どうしてそう思う?!」
「
考えこむようになったハマダリンだったが、すぐに首を振って返す。
「使役はヒトにかけられるものではない! ほかに術者がいようと、首謀は間違いなくプリムだ!」
「ですが……」
納得がいかない様子の美名に、大師は平手をかざし向けてきた。すると、少女の飛行姿がまばゆく輝き出す。
「リン様、これは?!」
「可能な限りの『強化』の
「神衣」ほどに効能はないとはいえ、ハマダリンは当代
そうこうするうち、教区の最大都市であるセレノアスールをして、小さな箱庭を
遊び壊すような巨人の姿は、もはや眼前――。
「雑念を閉じろ! 美名は足を狙え!」
「はい!」
巨体の寸前で、両大師は上下に分れる。
上に向かったハマダリンは、あえてプリムの眼前に身を
しかし、巨大な瞳は
「私だ、プリム! 私を罰したいのだろう?!」
ハマダリンは相手の顔の周りで飛び回り、チリチリと剣閃を走らせていく。
しかし、身体に比すればあまりに小さなその傷も、ジュクジュクと音を立て、醜怪な光景で治されていく――。
(このような化け物になっても、まだ魔名は響いているということか?!)
となれば、生半可に傷を与えていこうと意味がない。
「美名、上に……、むッ?!」
相棒を呼びつけようとした大師に、巨人の腕が振り上げられる。まるで、壁が迫りくるかのよう、
大師の身は、巨大な平手に捉えられ――はしたものの、打ち据えの瞬間、彼女はうまく身をよじらせ、指と指のあいだをすり抜けていった。
続けて、二度、三度と同じように平手が放たれてくるも、ハマダリンは、卓越した身のこなしですべての難を逃れていく。
(
だがその回避にも、気を抜く余裕などありはしない。次々に襲い来る平手は、大師に美名を呼ぶ暇を与えてはくれない。
一方、巨体に沿って脚部に向かった美名は、その耳に小さな
(誰か、逃げ遅れてるヒトがいる!)
声を頼りに、肉が垂れさがる股下を飛び抜けると、美名は数歩先の
そのまま真っ直ぐ、美名は瓦礫を目掛けて飛ぶ――。
「らぁッ!」
瓦礫を斬り壊し、男を拾い上げた美名は、すぐそばの地面に着地した。
「立てますか? 走って逃げれますか?!」
「うぅ、う……」
答えずに呻く男を見れば、膝から下、血で真っ赤に染まっている。幸いにも骨折までには至っていない様子だが、ふくらはぎには裂傷があり、傷口からは肉が見えて痛々しい。走るどころか、歩くことさえできそうにない。
(リン様の『治癒力強化』が、私にはまだ残ってる!)
美名はすぐさま平手を光らせた。
すると、男は自身の平癒に気が付いたのか、きょとんとして少女を見返してくる。
「や、ヤ行さま……? いや、
「つ、うぅ……。もう……、大丈夫なはずです……。 早く逃げてください!」
「は、はい! ありがとう!」
男の避難を見届けるのもほどほどに、少女は自身の足元に目を落とした。「
「さすがはリン様の魔名だわ……。あッ?!」
ふいに、空気が固まりとなって落ちて来るのを感じた美名は、
そこに落下してきたのは、極太の柱。巨人の一歩である。通りの石畳を吹き飛ばし、まるでそこから生える巨木かのごとく、肉を垂らした片足が
「『足を狙え』……。プリム様、ごめんなさい!」
ハマダリンから受けた短い指示が、「片足を不能にさせ、これ以上の進撃を阻止する」意図にあると的確に察していた美名は、その巨大な足に向けて駆け跳んだ。
「
光の矢のように駆け抜けていった美名には、「斬れた」という確かな感触があった。肉を斬り、骨を断った手応えがあった。
だが、振り返って見てみれば、少女のその実感は裏切られてしまう。
「そんな……?」
寸断したはずの巨大な足は、「
「サ行の治癒力強化……?」
見る間に治癒された足は、ふたたび地から離され、少女の頭上へと振り上げられた――。
「クソッ!!」
間一髪、転げまわるようにして踏み込みを避けると、少女はすぐに身を起こし、巨体を見上げる。
(
果たして、この
少女の
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