自奮大師の強襲と朱下ろしの散雪鳥 7
『燃やし尽くせ。セレノアスールの町を、すべて』
気を抜けば自我を失くしてしまいそうに深く、
引き取った「タ行
『消せ。燃やせ。セレノアスールを! 今すぐに!』
「うるさい!!」
少女は叫んだ。
全快した
「どこのどいつだか知らないけど、こんな卑劣な真似をして! 自分の手を汚さず、多くのヒトを巻き込んで! 私はアンタを許さない! 絶対に許さない!!」
『消せ!!』
「うるさい! 私から、出てけぇッ!!」
少女の怒号のあと、使役の命令はパタリと聞こえなくなった。
「ッ?! あっぶなぃ!」
後ろに
「アンタはこっちよ! こっちで決着をつける!」
まだ油断してはいけないと気を張りなおすと、美名は
まもなくして海上上空にたどり着いた美名は、空中でぴたりと止まり、後ろを振り返る。散雪鳥は変わらず、真っ直ぐに少女を追ってきていた。
(ここでなら町の被害にならない!)
これまでの逃げ足から一転、少女はアヤカムに正対すると、強く踏み込んだ。
ふたつの突風がお互いに向け、すさまじい速さで吹いていく。
あと数瞬で衝突する間合い、散雪鳥は
「
得物を突き出し、美名は火へと飛び込んでいく。
何物をも
そのままの勢いで突き刺すことを狙うも、飛行の動きは空の覇者、散雪鳥のほうが
だが、最接近できたこの機を、美名が逃すことはしない。
もう少しで触れることができそうな朱色の背中へ、左の手をかざし向ける――。
「
追い抜きかけていた散雪鳥は、その身に
美名は、飛ぶために奪っていた自らの重みを散雪鳥に上乗せしたのだ。
これだけの巨大な鳥である。自重は最大限に軽量化され、最小限に抑えられているだろう。そこへ、いくら小柄とはいえ少女の重みが加われば、まともに飛ぶことなどできるはずもない。事実、アヤカムは空中での自由が利かないことに混乱し、なす術なく海へと落下していく。
今、この瞬間、空の覇権は少女へと渡ったのだ。
「
カァン
鋭い音とともに、散雪鳥の長い首は断たれた。アヤカムには断末魔をあげる暇さえなかった。
すかさず、巨鳥に手を伸ばし、重みを奪い返すと、美名は海面すれすれで急転回し、空へと浮かび上がっていく。命を失い、飛ぶ力もなくなった巨大な残骸は、派手な音をたてて落水し、大波を引き起こしていった。
上空で静止し、肩で息つく少女は、沈みゆく影を見下ろしながら複雑な想いに駆られる。
「本当なら、アンタもこんなところで死ぬはずじゃなかったんだよね……」
暗い海面にゆらゆらと浮かぶ、たくさんの赤い羽根。
どこかもの哀しい光景に、美名はかつて見た、海に浮かぶ
波に遊ばれ、揺らめくこの羽根も、散雪鳥が奪っていった命、白装束が奪った命、そして、散雪鳥自身の命を意味するのかもしれない。そんなことをふと思って、美名の心はずきりと痛んだ。
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