自奮大師の強襲と朱下ろしの散雪鳥 3
「
少女の渾身の一刀であったが、巨大な鳥は体長に見合わぬ俊敏な動きで身を
もう何度も、美名はこうして剣撃を仕掛けているが、アヤカムへは有効打ひとつ、かすり傷ひとつも与えられずにいる。疲労を如実に示すかのよう、少女の鼻孔からは鮮血が垂れ、夜空に流れた。
「
徒労の連続ではあるが、今はこうするよりほかにない。少なくとも、こうして特攻を仕掛けていれば、執拗に狙っているらしき町への爆撃を中断させることができる。
「住民らが避難する時間を稼ぐ」。
教区館は直撃を受けていなかったようだから、もうまもなく、ハマダリンが混乱を収拾し、加勢を送ってくれるだろう。そう信じて、美名は「
この事態の発端は、観劇の真っ最中にもたらされた。
劇の終局、舞台上に何かが落ちて来た直後、美名らが陣取っていた「
セレノアスールの
直前まで歌劇世界に没入していた人々は、突然の惨状に叫び、逃げ惑った。
混乱の渦中にあって、爆発の原因が何であるか、少女はすぐに見極めた。
スカルとアリヤのふたりが見上げていた星空。その空に異質な影を見つけたのだ。
流星の尾のように火炎を引き、飛び回る何か――。
クミとトキ
空のうえで少女が対峙したのは、巨大で美しい鳥であった。
広げられ、月光に照らされた翼は、大人の背丈の倍近くはあるようで、根元から
はじめて目の当たりにするこの巨大な鳥が、
同時に、先生の訓戒も少女の脳裏に
『いいか? どれだけ強くなろうと、どれだけ経験を積もうと、自分を過信して、侮っちゃいけねえ相手がたくさんいる。そのひとつが三大妖だ』
『さんたいよお?』
『ああ。
『そんなにアブナイの?
『四つ目よりアブナイ。
『先生はアブナイもんね!』
『そうだ。さっき言った侮っちゃいけないものの第一が俺だ。俺を敵に回すなよ?』
『わかりましたぁ!』
――しかし、かつての洞蜥蜴のときと同様、今、このときにおいて、美名は先生の言いつけに素直に従うことはできない。従えば、セレノアスールが壊滅させられる。
「
今度の斬りつけも、文字通り、
だが、先生に教えられた剣が難なく避けられようと、手を緩めてはいられない。
ふたたび突進をかけるべく、鼻血を振り撒きながら、美名は身を反転させた。
しかし、振り返った先の光景に、少女はビクリと身を強張らせる――。
(近いッ?!)
散雪鳥は眼前にいた。
これまで、このアヤカムは少女と一定の間合いを測るかのよう、回避のあとには飛び下がっていたはずだ。
しかし、今回は違う。
巨大鳥は、両翼をやや前に傾けた姿で少女の目の前にいた。こぶしほどある漆黒の眼球を見開き、嘴をカチリカチリと鳴らしていた。
(マズい! 何か、来る?!)
今度は少女が距離をとろうとするも――。
「キャッ?!」
間に合わず、巨大な散雪鳥に比べればあまりに小さな美名の体は、紅蓮の炎に呑み込まれる。
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