幾旅金と人世哀 5
「放っておけ。『
ようやくに我を取り戻し、逃亡者を追いかけようとの動きをみせだした近衞らに、高台のうえからゼダンが制する。
オ・バリがあれほどの手負いの状態であれば、無為に死体を増やすより、もっと確実な方法がある。
ゼダンが「カ行・
「何だ? 恥知らずの
「どういう意味だ? ヤツの、最後の言葉は……」
「……」
「シアラと俺が同門とは……、どういうことだ?!」
「……貴様にかかずらっている暇はない」
ゼダンに面と向かうと、彼を阻むように「
「当人の預かり知らぬところでは意味がないかもしらんが、
「約束を
「知っているなら答えろ。ヤツの
嫌悪露わな目で少年を見ると、ゼダンはふんと鼻を鳴らす。
「貴様、知らなかったのか?」
「……何のことだ?」
「
「シアラが……、剣術だと……?」
思わぬ事実に、少年の刀の剣先は自然に下がる。
「大師着任時の披露目以降、練達がなければ、今の貴様よりはだいぶ劣るがな」
(……俺の剣術は独学だ。あの逆賊と同じだなどと……。いや!)
当惑する明良は気付き、目を
(まさか「
思い
それに気付いて、明良は身構えようとするものの、困惑に囚われていたため、遅れてしまった――。
「
大都王の平手が光る間際、声をがならせ、高台の段を登って来る者があった。
ひどく慌てた様子なのは聞こえるとおり。登りきり、ふたりに姿を見せた乱入者は、息を切らせてもいた。
ゼダンは苛立った様子で伝達者に顔を向けると、「何の報せだ?」と訊いた。
「この場での誤報や
「そ、それが……!」
ふぅとため息を漏らしたあと、ゼダンは伝達者に目を向けた。「聞かせろ」という合図であろう、報告者の男はゼダンに耳打ちをかける。
ふたたびに平手が向けられても応戦できるよう、構えを正しながらの明良はその様子を見守る格好になる。一瞬、ゼダンの顔に
「……続報を集めろ。詳細にだ」
「は、はいッ!」
聞き終えた王の命に敬礼で応じると、伝達者は来たときと同様、慌てた様子で段を下りていった。
「
「何だと?」
「
振り返ったゼダンの冷徹な瞳に、明良は少しだけ安堵する。先ほどまで向けられていた明確な殺意の色。それが、ひとまずは潜まったようだと感じたのだ。
「大都の領地の最南東、イリサワが壊滅したとの報せだ」
今現在、コ・ゼダンが統治する「大都帝国」の影響領域は、「大都」を中心としたいくつかの村落にも及んでいる。ヒトの流れ、農産物の流通、稼業、経済取引の観点から、どうしても大規模都市である「大都」との関係を切り離すことができず、魔名教会も黙認せざるをえない。
イリサワという村も、ゼダンが「大都圏領地」と称する人里のひとつで、そこには主神を崇敬する大都独自のあらたな「魔名教」の学校、「王立
「壊滅……? アヤカムか?」
村がひとつ「壊滅」するほどの事態。それには、自然災害や、特定の種のアヤカムの大量発生が絡む場合が多い。しかし、どちらも前兆を知ることができる。そのような予見があれば、大都王の耳に予め入っていないはずがない。
つい口をついて、「アヤカムの仕業か」と訊いた明良だったが、自ら、その着想は間違いであると悟る。イリサワの「壊滅」は、自然なものではない――。
少年の心中を覗いたとでもいうよう、ゼダンは「ヒトだ」と答えた。
「ヒトがやった。不明の軍勢だという」
「軍勢だと……? どういうことだ?!」
「黙れ。それを知るための、優先なのだ」
少年を置いてきぼりに、ゼダンは高台の際に立つと、「閉会せよ!」と号令した。
どよめく会場を無視して身を
「今すぐ当地に赴かねばならん。これが、魔名教会や
最前まで自身に向けられていたものとは別種の、ゼダンの不穏な面差し。
明良の乱れて惑う心中は、
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