十行会議と大都からの報せ 7
「『
美名と
「
読み終えられ、「シツギ園」は
「……して、『大都帝国』とやらの真偽は? その
長い静けさを破り、声音を落として発せられたタイバ大師の問いに、フクシロは「別経路です」と答えた。
「大都の魔名教会からの情報です。昨晩遅く、守衛手やら執務部……、大都に置かれていた教会組織、魔名教に関係が深かった人々……、すべてがまるごと、大都の町から追いやられた、と」
その言葉を聞き、美名の顔に蒼白が走る。
「まさか……、私たちがアイツを逃がしてしまったせいで、誰かが……」
美名へと向き直って、フクシロは「いえ」とかぶりを振った。
「負傷者はありましたが、死人はなかったようです。『
「……
背後にちらと目を流し、フクシロは頷く。
「大都に立ち戻ろうとしても、すでに厳戒警備が敷かれていたそうです。負傷はこの際、無理押しした者があって、
「……命のやり取りは……、ひとまずは、なかったのですね」
「ふむ……」
書面が折り畳まれていくカサカサとした音が、際立って響く。
「混乱に
「司教……、いや、元司教、ゼダンの
肩をすくめて、レイドログが嘆息する。
「……協議とは、大都
問うた
それを認めると、眉根を寄せて憤りも露わだったプリムの顔が、
「まさか、フクシロ様……。魔名教を
「はい。受け容れ得ます」
「……ですが、当然、ゼダンの執政統治が居坂に害為すものでなく、『大都帝国』が暴虐の体現とならないことが前提です。三日後の会談は、それを見定めたく思うのです」
「で、では、私たちの『協議』とはいったい、何を……?」
狼狽える自奮の大師にしかと目を据え、フクシロは瞬きひとつしない。
「魔名教会の態度を統一しておきたいのです」
「態度……?」
「はい」とフクシロは頷き返す。
「『真名』の理念では、今後はむしろ、地方のそれぞれの地勢、特色、風土を活かした自治を促進していきたいと考えております。今現在でも、たとえば、
「ですが、それと、今回の大都の
「始まりは穏やかではありませんが、
「そんな……」
零れんばかりに目を見開いて呆然とするプリム大師の横で、「いいと思いますよ」と先んじたのはレイドログ
フクシロは、彼と彼の肩上のズッペルへ、おもむろに目線を流す。
「レイドログ大師は賛成いただけるということですね?」
「変化がないと、流れには淀みができてしまう。居坂にもそういう時流が訪れたということでしょう」
背後でも「賛成だのん!」と快活な声。
「リィとラァも賛成だのん!」
「ちょっと、ニクリ。私は関係ないでしょ……」
「儂も、異議を
振りむき、口々に賛同する者らに微笑を流していき、フクシロは「ワ行の席」のふたりにも目を向ける。
「美名さんとクミさんは……」
問われきる前、揃って頷く、少女とネコ。
年若い教主は、年相応のあどけない笑みで応じ返した。
しかし、それも一瞬のこと。
ふたたび、「真名の提唱者」の厳格さを努めて纏うかのよう、面持ちを固めたフクシロはそのまま身を回し、「サ行の席」へと正対した。
「プリム大師はいかがでしょう」
「……異論ありません」
目線を少し外して答えたサ行自奮の大師。
言葉とは裏腹、彼女には隠された意見があることをフクシロは感じ取ったが、のちに個別で話したほうがよいと考え、これにも頷いて返すのみとした。
「では、ゼダンの真意を
*
教主と
「組んでみないかい? プリム嬢」
鏡張りの堂内で「
「許せないんだろう? 邪念に開眼してしまった教主を。彼女に引き
会議と変わらないままだった姿勢、プリムの腕がわなわなと震える。
「フクシロ様はああ仰ってる。俺も、なかなかに
「使役の大師も……、魔名教の正統から、離反する気だというのですか?」
飛び回る相棒を眺め上げながら、レイドログは笑みを深めた。
その様子からプリムが察する答えは、「そのとおり」――。
「君と俺の教区は隣り合っている。迎えるに厚く、撃つに連れ立ちやすい。よき隣人になれると思うのだが、どうだろう?」
続く言葉にも、不穏な空気が漂う。
「……私は、離反などと不敬な真似は……」
「離反ではないな。君が旗を掲げるなら、それこそ魔名教の正統だ」
ハッとして相手に顔を向けたプリムは、やがて、おもむろに頷いて返す。
レイドログ大師は冷笑を深めて応じた。
ふたりの頭上では、密約の会話を隠すかのよう、ズッペルが「キィキィ」と騒いで飛び続けている――。
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