十行会議と大都からの報せ 5
「どうかした?」
「あ、いえ……。います。私にお師匠は……、先生はいます」
美名の目的のひとつ。突然姿を消してしまった「先生」を見つけ出すこと。
少女の成長は「先生」との旅路でもあった。
風が爽やかな丘の道を並んで歩き、
様々に教えてもらったこと。
共に旅してきたヒト。
少女には故郷もふた親もないが、あえてそれを定めるのなら、骨張った背中が彼女の故郷であり、整えられていない
何の前触れもなく消えてしまった大恩人に、美名はふたたび会いたい。
剣術も、先生から教えてもらったことのひとつである。上段構えと横薙ぎを主体とした型。
今、実戦経験をさらに積んだ美名が思い起こしてみても、先生は剣術に通じていた。片手しかなく、
美名が思い至ったのはこのことである。
先生を探し出すには、ただ居坂を歩き回るだけじゃなく、その方面を
「その方の魔名は?」
気を取られていたところから立ち直ると、美名はかぶりを振って返す。
「先生の魔名は、知りません」
「知らない?」
意外そうに聞いてくる大師に、美名はこくりと頷く。
「剣を教えてもらった恩人なんだろう? 知らないなんてことがあるのかい?」
「ヒトに魔名というものがあると知ってから、たびたび
「気にしなくなったって……。魔名だよ? 先生とやらも、魔名術を使うときはあったろう?」
少女は「ありませんでした」と首を振る。
「先生の魔名術を、私は一度も見たことはありません。私たちふたりの旅では、魔名は必要ありませんでした。アヤカムは刀で討てるし、負傷や不調の応急には
「ふぅん……。なんだか
「いえ、それが……」
美名はそこで、先生が姿を消したこと、彼の所在を追うため、各地を回っていたことを端的に告げた。
「ワ行
「特徴?」
レイドログは堂内をぐるりと見渡して、「ほら」と意味深い笑みを浮かべる。
「半分がいないとはいえ、ここには今、居坂の代表たる
「そうか。そうですね……」
応じながら、美名はちらりと教主を見遣った。
もう、だいぶ「査問」にも時間がとられている。このまま続けたとしたら、「査問」とは別、私的な内容になってしまう。さらに時間をとってしまい、教主が最前に口にした「別に協議したいこと」に障りがでるかもしれない。少女は気を回したのだ。
フクシロの方でも視線が寄越された意図を察したようだが、今時分の話題が美名の目的、「先生を見つけ出すこと」の援けになると見てくれたようだ。穏やかに微笑み、頷きを美名に返す。
司会の承知が得られたことで、少女はレイドログに向き直る。
「『査問』からは外れてしまいますが……」
それから、美名は「先生」の風貌の詳細を語った。
年の頃はおそらく五十あたり。長身、やせ型、白髪まじりの赤茶けた髪色。今の髪型は判らないが、旅を共にしていた十年弱はずっと、刈り込んだような短髪。他の、目を引く見た目の特徴は、左手の「
「ほら。早速、反応があったみたいだ」
おどけるような声にハッとし、美名は、レイドログが見つめる先、自らの背後に振り返る。
向き直った先で目を見開いていたのは、ロ・ニクラである。
「勝ち気なお嬢さん。誰か、思い当たる者があるようだね?」
「シツギ園」の耳目を一身に集めていることに気付いたニクラは、落ち着きを取り戻すためか、ひとつ首を振った。
「『顔の傷』に『札囲い』……。普通ではあまり見られない特徴の組み合わせ……。合致するヤツをひとり、知っています」
ニクラに追随するように、何かに気付いたような顔になったのは、クミとニクリ、そして、教主フクシロ――。
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