太古の礼拝殿と司教 6
「モモ
夜明け前の
どこか美しくもある光景を見据えながら、美名は呟いた。
同じく正面を向きながらの明良が、一拍置き、「ああ」と応える。
「もはや、間違いないだろう……」
「……なぜだか判らないけど、さっき、確信した。殴られて、吹っ飛んでるとき、『ああ、モモ姉様はもう旅に出たんだ』って、『私たちとは別のカタチになったんだ』って……、なぜだか判った」
「……」
「
少女の瞳で波打つのは、涙ではなく意志。
目を向けずとも明良には判る。
なぜなら、少年もまた、同じ想いで心を
ふたりが見つめる先、司教を取り巻いていた炎の渦が、
仁王立つゼダンの顔には、険しい色がある。
ふたりを睨みつける瞳に、咎めるような気配がある。
彼の様子からは、火勢とともに、最前まで美名を手玉にとっていた余裕ぶりが消え去っている。明らかな憤りをみせている。
「
「……貴様の
「……そうじゃない。『合わせ
ゼダンは平手を振り、
標的にされた少年は、白光りの得物を振り、火の玉を斬り落とす。
意識せず、ほとんど反射だった明良だが、難なく魔名術の矢を撃ち落とせたことに、どうしてだろうか、彼自身が当惑している。
「やはり」と舌打ちを鳴らし、司教の姿が消えた。
ふたりの眼から遠ざかったゼダン――。
「……何? 何が起きてるの?」
「今が機だ! 美名!」
我を取り戻した明良が叫び、跳び出す。
司教の姿が在った場所を目掛けて。
「明良ッ?!」
「ヤツは、何故か知らんが弱まっている!」
「弱まってる?!」
訳も分からずだが、美名も追従し、跳び出す。
「先ほど
路面に着地した明良は「幾旅の
瞬間現れた光の切れ目。
すかさずに腕を突き入れ、明良は何をかを掴み出した。
少年の五指にしっかりと捉えられたのは、端を焦げさせた白布――。
「逃がすな、美名!」
「
少女の剣閃により、明良が作ったものより数段大きい、裂け目ができる。
すぐ目の前に現出するは、
「
「うっ?!」
「離せぇッ!」
目くらましの
鈍い音が
だが、明良は掴んだ手を離してはいない。
「やはり弱い! 美名の剣をいなす本来であれば、俺の握り拳など
「グッ! 意気がるなよ!」
もうひと度、同じ箇所に手刀を打ちつけようとゼダンが腕を振りかぶった刹那、彼の
美名だ。
「アンタの光は、ニクラにも勝ててない!」
「ぐぅヌッ?!」
ふた回りはある体格差をモノともせず、少女は相手の足を払い、片手で背負い投げた。
声にならない呻きとともに、ゼダンの身は地面に打ち据えられる。
この投げ技、大勢を決するほどの負傷を与えられていないのは、美名自身、充分に承知している。
しかし、視覚を完全に回復させ、美名が見下げた顔。
それが、立場の逆転を如実に表している。相手を
今、この「カ行の丘」で、
覚悟せよ――。
「ほう。やはり、美名嬢が一番乗りかね」
ふいに、美名の視界はぼんやりとした
「ラ行・明光」の目くらましからは回復したはずである。
だが、今しがたまで眼前にあった、仇敵の姿がない。傍らにいたはずの明良の姿もない。
代わりに霧のなかに在ったのは、ひとつの人影であった――。
「ここに至るまで、苦労させちまったろう? 得意になって
「……モモ姉様……?」
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