粗忽な附名大師と骨占い 1
「いやはや、ごめんよ、ごめん。早とちりだったんだ。そんなに殺気立たないでくれよ」
「あっはっは」と笑う男に、
ふいの襲撃に関して謝った「隠れビト」――オ・バリは、少年に肩を貸し、自らの居住小屋まで運び込んだ。
「手当て」と称し、刀傷には緑色の
「山で採れる薬草を調合した
険しい視線を知ってか知らずか、バリは軽やかに言った。
少年はふん、と鼻を鳴らし、辺りを見回す。
「小屋」と呼ぶのもはばかられるような、
調理道具や調合器具。書物や植物の枝葉。動物の頭蓋骨らしきものまでが無整頓に散乱しており、汚らしい。この空間のどこで寝起きするのか、明良には不思議でならなかった。
「……『バンリ』という話だったが、『バリ』なのか? 貴様の魔名は」
「ああ、それはね。トバズドリのヒトたちの
「……こんな場所で
「あれ? 僕、大師だなんて言ったかい?」
「オ・バリ」――。
身元を詳細に明かされずとも、その魔名で男の正体は知れた。
当代の「十行大師」のひとりであるからなのはもちろんだが、他に、特別な
その所以とは――「数年前、突如として行方を
今現在においては「カ行
ゆえに、「オ・バリ」とは、旅程のそこかしこで明良も耳にした魔名である。
そして、この大師が「姿を隠した理由」の憶測も、様々に耳にした。
「
しかし、先ほどの戦闘でのやりとりから明良が察するに、彼が大師職を放棄し、人里を離れている理由は――。
「貴様も、司教ゼダンと敵対したのか?」
バリの顔色が
「……手当て、終わり。若いから治りも早いと思うよ」
片付けのためか、バリはくるりと背を向け、なにやらゴソゴソし出した。
上体を起こし、明良はそのみすぼらしい背中を見つめる。
「俺を司教からの『刺客』と勘違いして襲ってきた。そうなんだろう?」
「……まだ魔名を聞いてないが、君は『
大きくため息をついて、「明良だ」と自身の名を告げる少年。
「幻燈どころか、魔名術は扱えん。自称だ。それに貴様、先ほど自分で言っていた言葉だぞ? 『司教からの刺客』というのは……」
「え」と、驚いて振り返るオ・バリ。
その表情は真実、虚を衝かれたかのようだった。
「ホントかい? そんなこと言ってた?」
「……しっかりと」
「えぇ~……。あぁ、いや、僕、抜けてるトコロあるからなぁ……」
「これまでのところ、『抜けてる』などと生易しいものではないが」
「いやぁ……、これは参った」
「あっはっは」と、悪びれもせずに笑い上げるバリ大師。
しかし、明良はそれに同調するような心持ちにはなれない。
(お
笑いやめると、「それで」と附名大師は少年に顔を向ける。
「僕に何か用だったかい? 司教が魔名を返したという報せなら、嬉しい限りだけど」
「
「……では、何のために?」
「この島を脱する
「できれば動力の飛翔、それに比するもの」と付け加えた明良に、バリは「どういうコト?」と首をひねる。
「来た手段で出ていけばいいんじゃないかい?」
「……説明するのも
「……ずいぶんと
雑多な山におもむろに身を伸ばし、バリが手に取ったのは何やら白いモノ。
大師はそれを埃だらけの床にコロリと転がしながら、「ないね」と答えた。
転がったのは――動物の骨のようだった。
「……トバズドリのヒトたちは僕を超人か何かと考えているようだ。この島の
話しながら骨を眺め、手に取り、ふたたび転がす。それの繰り返し。長々とした話と、骨での手遊び。
もうひとつため息をついて、明良は身を起こす。
「……僕としては口止めを兼ねて、薬とか山菜、『
話し続けるバリを無視して「
「世話になった」
「……あれ? 行くのかい?」
明良は「ここにもう用はない」と言い放つ。
「今の俺の第一は、福城へ直行することだ。貴様がこの島からの脱出の術をもたないなら、すぐにでもマオの世話にかけてもらって船で出る。与太話なら、用が済んでからまた聞きに来る」
小屋を出て行こうとする明良だったが、その背中に「誰か、死んでるね」と言葉がかけられた。
足を止め、振り返る明良。
「……なんだと?」
「君も司教と敵対してきたんだろう? 争いがあった。そこで誰か、魔名を返した。
ア行の大師は目を細め、柔和な笑顔で告げる。
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