夢乃橋事変の少女とネコ 3
「そんな……、嘘ですよね……?」
「一円にもならない嘘など、つかんわい」
「え、ちょっと待って……。え? タイバ大師は『魔名解放党』じゃないって、たしか、『
クミの疑問に、老大師はニヤリとする。
「……一円にもならない信仰など、持たんわい。あやつらの仲間になった気などないぞい。請け負った仕事だといっておろうが、クミ様よ」
「モモ大師の
「あぁ、『
「魔名術封じの『
「……タイバ様……」
困惑から覚めない少女を無視するように、大師は筋張った平手を
「……ホレ、下がっとれ。危ないぞ」
「……ッ!」
ハッとして美名は、クミを抱えこむとタイバ大師から距離を取った。
「……ナ行・
ドンッ
「……ッ?!」
「きゃぁ!」
大師の直下、彼が
美名はクミを抱えたまま身を屈め、腕で遮りを作る。
だが、爆風は激しく、少女の身体は後ろに流される。飛来する
術者であるタイバは、胡坐の体勢のまま宙に投げ出されたが、ちょうどそこには例の
身を絨毯に落ち着けると、タイバ大師は
「……ふむ。やはりこれ、落としきるには骨が折れそうじゃのう」
術者は「
「なんつう威力なのよ……」
「……タイバ様、やめてくださいッ!」
立ち上がり、大師を見上げ、叫び訴える美名。
「こんなこと……、お願いです! やめてください!」
「……ふむ」
絨毯の上から見下ろし、タイバ老師は「一千万」と告げた――。
「……え?」
「一千万じゃよ。この解体作業。その額で請けとる。やめろというなら、お嬢ちゃん。それ以上のカネが払えるかの?」
「……そ、そんな……、おカネ……?」
「ないなら、クミ様と一緒になって下がっとれ。儂としても、お嬢ちゃんを傷つけたくない」
識者大師を乗せた絨毯は、ふわふわと漂って美名たちから離れていく。
「あんの
ギリギリと
直後――。
ドォン
識者の「
美名は、自らの身が焼かれるような思いであった――。
(橋が……、
「……タイバ様、やめてくださいッ!」
「ちょっと、美名? 戦うの?!」
「……戦うわ」
「相手は『
美名は小さく首を振る。
「ダメ……。自分勝手な理由だけど……、ここは……この橋は! 壊されたくないの!」
絨毯の上にふたたび舞い戻ったタイバは、美名の臨戦姿勢に気が付いたようだった。片眉を
「はっはぁ……、
「……ほらぁッ!」
「ごめん、クミ! 下がってて!」
「美名ぁッ!」
制するようなクミの叫びを背に、美名は走り出す。大剣を水平に、真一文字にして風を斬りながら、橋の上を駆ける。
迫り来る少女の姿にまたひとつ、ニンマリと笑みを浮かべると、タイバ大師は懐中に手を入れた。
取り出されたのは、十数個の石。どこにでも転がっているような、石ころ――。
「ホレ。これでもあげよう」
石ころが美名の進路上に放られる。
放られた軌道の途中で、十数個の石は音を立てて破裂した。
「つぅッ?!」
爆散した石の破片は、当然、美名も襲った。
小さな破片とはいえ、爆発で勢いづいた速度はすさまじく、数も多い。少女は胸に、腰に、腕に、顔に、足に――あらゆる部位を撃たれる。
だが、美名は歯をくいしばりつつ、大師に駆け向かう足を止めない。
「……タイバ様ッ!」
「ほう。こりゃぁ強いわい。それ、もういっちょ」
ふたたびの石弾の
だが、傷を増やしても美名は止まらない。宙に浮かぶ大師を真っ直ぐに見据え、間合いに入ると、少女は足を踏み切って跳び上がった。
「
老大師に迫る、「嵩ね刀・不全」。
「ナ行・
美名の一撃は、杖に弾き返された。
超質量の「嵩ね刀」の横腹が杖を捉えた瞬間、柔らかくしなやかな感触で跳ね返されたのだ。
「きゃッ?!」
反動に体勢を崩しつつも、美名は着地する。
見上げた先で、タイバ大師は悠然として杖を掲げてみせた。「嵩ね刀」の過重の打撃にも、損傷ひとつない――。
「そんな……? あんな……木の杖で……!」
「……『嵩ね刀』が不完全などと、自分で告げちゃあいかんぞ、お嬢ちゃん。それに、『万物を
「……?」
語りに囚われていたためか、美名は気付くのが遅れた。
夜空に浮かぶタイバ大師の姿が、上へ上へと昇っていっている――。
「地面は……、お嬢ちゃんの足元は、もうすでに儂の識者が変えておる」
「これは……!」
見回す美名。
大橋の欄干、石床――だんだんと美名の視線と同じ高さに変わっていく――。
(……違ったッ! タイバ様が昇ってるんじゃなくて、私が下がっていってる?!)
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