内証室談儀と動き出す者たち 4
「……まさしく、クミ様の仰るとおりでしょう。すでに事態は動いております……。『魔名解放党』という
「『戦争を止める』……、『
教主フクシロは
「……
「特別な能力……? 『神世の知恵』とか、『知識』のことですか?」
金髪を揺らめかせて、少女は首を振る。
「それもありましょうが、もっと直接的で、強大な力……。魔名教代々の教主の間に申し伝えられるその力は、『
「へんり……?」
部屋隅の台から書き紙を取って、教主フクシロは「変理」と記した。
クメン師も初耳で初見だったのだろう。教主以外の三人は顔を突き合わせ、紙片上のその小ぶりで神経質そうな字を覗き込む。
「『
「
「言葉どおりなら、『ルールを変えられる力』ってことかしらね……」
「……そこで、クミ様には
「『争い』を……?」
「……ええ。ヒトとヒトが衝突も、傷つけ合いもしない、そんな居坂に変えていただきたいのです」
「……」
(「争いのない居坂」……? うぅ~ん……)
少女の言葉を
(そんなことができるなら、そんな世界が来るなら、誰も傷つかないのかもしれない……。皆が幸せなのかもしれない。でも、なんだろう……。「争いをなくす」って考え方が、ストンとは、私の中に落ちてかない……)
クミは教主フクシロに目を遣り、クメン師に目を配り、美名に目を向ける。
三人が三人とも、淀みのない瞳で、
(ダメだ……。なんでだろう? なんでそう思うんだろう……。「ルールを変えて、居坂から争いをなくす」……。なんだか、気に食わない……)
次第にクミは、自身への嫌悪の感が出てくる。
「争いがなくなる」――。
絶対にいいコトのはずである。皆が幸福になれるはずである。けれど、腑に落ちない。なぜか、跳ねつけたい。
そう思う自分に、嫌気が差してくる。
クミはそのことを、純真な視線を寄越す三人に悟られまいと頭をひとつ振って、「どうすればいいんですか?」と訊いた。
「……どうすればその『変理』は為せるんでしょうか? 私が『変われぇ』って念じでもすればいいんですか?」
「いえ……。あるところに、赴かねばなりません」
「あるところ……」
教主フクシロは、「変理」の字の横にふたたび筆を走らせる。
書かれた文字は、「天咲塔」――。
「てん……さき……とう?」
「いえ、たぶんこれは……
教主の少女が、美名に対し頷く。
「
福城を目指していた美名たち一行がつい一週間ほど前、
「……え……? あの山に『塔』があるってこと? そこに行くの?」
「でも、あの山にも付近にも、『塔』どころか、人里やまともな建物も、なかったと思うけどなぁ……」
「『塔』を、下りるのです……」
「……?」
首を傾げるクミをチラリと見やってから、美名はおずおずと教主の顔色を窺うようにする。
「その、教主様……」
「……はい?」
「どっちにしろ、天咲のお山には行けません……というか、間に合うかどうかが、怪しいのです」
ハッとして、教主はクメン師を見遣る。
その目には、必ず貰えると知りつつ親に援けを請う
「……急いでも、行くだけで三日はかかるでしょう」
クメン師も美名の言葉を裏付ける。
「三日後の『烽火』には遅れる可能性がありますね……」
「……すみません。あまり、地勢に詳しくないもので……。ど、どうしましょう? 私、客人様に『変理』で争いをなくしてもらえるとばかり……、そう思ってて……」
「……」
嘆くような教主の言葉に、またもクミは胸の中に気持ちの悪いモノが伝う。
しかし、それを吐き出すことも
「
その着想ですべてが救われたかのように、フクシロの様子ははしゃいだようになる。
「うぅ。あの方ですか……?」
「クメンはまだ、苦手にしているのですか? あんなにも偉大で、誇るべき方を」
「大伯母様……?」
「……って誰なんですか?」
教主は懐から、紙を取り出しながら微笑む。
取り出したものはどうやら、一枚は明良が持っていき、一枚は美名に渡された、「
「大伯母様――今回の居坂の不穏をいち早く察知し、私に進言をくだすった、一族の誇り――、当代の
思わぬ者の名と、「モモ大師が教主の一族」という思わぬ新規情報に、美名とクミはしばし、呆然とさせられた。
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