福城の守衛手司と迎賓館 2
「なに、あの
「激しい性格してそうだったねえ……」
「ニクラさんと仰います」と、クメン師が苦笑して紹介する。
「あの若さで福城の
「双生って……
クミの
「……
「クメン様はヒトが良すぎます! あれはただの
「……『ショーワルガール』ってよく判らないけど、響きが可愛いね」
「美名はそんなのに興味持たなくていいの!」
話しつつ、一行は時折クミが挟む、「こっち」、「そっち」という声に従い、「教会区」内を歩いて行く。彼女は自身の首元に
「教会区」に入ったはいいものの、敷地は広く、ヒトの往来はまったくといっていいほどない。人目を気にせずクミが発言できるのはいいのだが、「黒髪の少年の行方」をヒトに尋ねることもできない。
ゆえに、今はただ、遺物の指針に従うのみだった――。
「ここかなぁ……。この建物……」
「ここ……ですか……」
そうして、美名たちはひとつの石造りの建物の前に到達した。
道々見かけた建物の基本は白塗りで、控えめながらも「聖十角形」をはじめとした装飾も
「この『
「『迎賓館』……? え……?」
「えぇ~……? 明良、お客さんとして歓待でも受けてるってワケ?」
目をしばたたかせるふたりに向かって、クメン師は「いえ」とかぶりを振った。
「『迎賓館』っていうのは、その……、ちょっと
「しゅ、収監所ッ?!」
美名とクミの驚きの声が揃う。
「はい……。かつてあった『貴族身分』向けですから、内部は整然としていて、過ごすには申し分ない設備のようです。しかし、申したとおり『収監所』――その実は『牢獄』ですので、しかも『高位術者』向けでもありますから、
「えぇ~……? 明良、捕まったってことぉ……?」
「……」
驚愕し、困惑するふたりに、クメン師はまたもかぶりを振った。
「脅かした風で申し訳ありません……。明良さんが
「えぇ~……? 明良、そんな
「……とにかく、中にいるのは間違いないです! 行きましょう!」
「おぉう……。美名が勢いづいたよ……」
美名を先頭として、一行は「迎賓館」に立ち入っていく。
それから少し経って――小柄な人影も、人目を忍ぶようにして館に入っていった。
「この部屋かしら。サガンカのときと一緒で、針の色、もうすっごい、真っ赤っかよ」
鉄製の引き手が埋め込まれた、重々し気な石戸の前でクミは言った。
「でも、いかにも『牢』ってカンジの扉よね……。これ、ホントに明良いるのかしら……」
「よ~し、入ろう、入ろう!」
勢いそのままに、美名が引き手に指をかけたときだった。
「待ちなさい」
「え?」
地下階の廊下を木霊する声。
続けざま、カッカと響き渡る、歩行音。
暗がりより姿を現したのは――。
「……ニクラさん!」
「ゲェ……」
守衛手司の少女、ニクラであった。
近づいてきた彼女は
「……困ります。無用な場所には立ち入らないよう、念押ししたはずですが?」
「ああ……、申し訳ありません。実は、ヒト探しをしておりまして……」
「ヒト探し……?」
それに応じたように、美名が「そうです」と声を張った。
「私たちの
「黒髪、青い瞳、目つきが悪くて刀を背負って! もしかすると、この暑い季節の中、真っ黒な服着た男の子がね!」
小さなクミも追随する。
守衛手司ニクラは、その言葉を聞きつけると発言内容よりもまず、発言者相手に目を丸くした。
「は……話した……?
取り繕うように、名づけ師クメンが咳払いする。
「……すみません、ニクラさん。この方は『
「……まろうど……」
「おふたりとも教主様の
ニクラはさらに目を
傍らの美名は、守衛手司のその
「彼女たちの友人……、少年で、明良さんと仰る方がこの室の内にいらっしゃるようなのです」
「え……? あ、いや、そんなことは……この館には、そのような者は……」
「絶対にいるわ! この
守衛手司ニクラは、思いつめたような視線を美名たち一行のそれぞれに、順繰りに移していく。その視線の周回にはいつの間にか、閉ざされた石戸も加わったようだった。
「か、鍵が……」
思い出したかのように言うと、ニクラは美名たちの間に分け入るようにして戸にとりつく。引き手に手を掛け、グッグッと力を入れる様子だが、その石戸が開く様子はない。
「ご覧の通り、この戸には、鍵がかかっています。誰かが立ち入る余地などは……」
「います!」
美名の断言に、ニクラの喉が鳴る。
「……ニクラさん、もしも鍵をお持ちでしたら、開けていただいてもよろしいでしょうか? 彼女たちが確信することは、
名づけ師に
複雑な形状の鍵を迷いなく選び取り、引き手上部の錠に差し込む。
たったそれだけの動作だというのに、守衛手司は呼吸を深くし、厳かな儀式であるかのようにゆっくりと開錠するのであった。
そうして、ようやくにして開かれた「牢」の部屋の内では――。
カン、カカカン、カン!
「……ッらぁッ! せいぁッ!」
誰ひとりとして想像していなかった光景が拡がっていた。
蝋燭の火が揺らめく、地下室。
いくつもの切り
こちらに背を向け、白刃の閃光を
「ちょ、ちょっと……明良……? だよね? 何してるの?」
「……ン?」
黒髪の少年の横顔が戸口に向く。
「え? 美名と……、クミか……? なぜ、え? ど……、え?」
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