客人の特性と先生の生業 1
美名とクミとはヘヤの
昨晩は、労働の対価で得た収入で宿を取り、夕食には獲れたての魚を、今度は火の通った調理で堪能し、町の家々の
深い眠りのあとに朝を迎えたふたりは、宿を出、つい先刻に幻燈の大師の室に顔を出してきたばかりである。
「今度来たら、ペッちゃんさんとも食事したり、ゆっくりおしゃべりしたいなぁ」
「年近いからか、すっかり仲良くなってたわね。にしても、その『ペッちゃんさん』って面白すぎてキケンだから、やめて」
「だって、私の名づけ師様だもの。呼び捨てにはできないわ」
「うん……? うん、うん?」
うんうん唸りながら隣を歩くクミに美名は勘違いしたらしく、小さな友人を見下ろして、「大丈夫?」と訊ねる。
「お腹の
「ン? あ、ああ、大丈夫よ。毛が少し焦げたくらいで、元からそんなにヒドくはなかったから。貰った薬も塗ってるし」
大師の室に向かう前に、美名とクミとは教区館内の「
だが、ここで予想外のことが起きた――というより、「起こらなかった」。
「それにしても、私に魔名術が効かないみたいだってのは、新しい発見だったわね」
クミが「客人」であると事情を話して、ヤ行の魔名術者に「治癒力強化」の魔名術を施してもらったところ、彼女の黒毛の中の小さな「
「治癒力強化」をはじめ、「他奮」の対象は動物全般である。事実、その術者も教徒の
それであるのに、クミの身体に「治癒力」が強化される兆候はまったく現れなかったのだ。
探求心が強いためか、自尊心を立て直すためか、ヤ行術者は同僚や周囲の魔名教徒をかき集め、少し呆気にとられはじめた美名とクミとを相手に「魔名術の検証」を始めた。
そうして、以下のような結果が得られたのである。
【クミには効果なし】
「カ行
「タ行
「ナ行
「マ行
【間接的に効果あり】
「カ行動力」による「
「ラ行
その他、「抜け落ちたクミの毛」を対象とした、「押引」、「色見」、「色変」は効果があった。
【検証により得られた推論】
クミには、「直接影響を与える」魔名術、「情報を知る」魔名術は効果がない。ただし、クミの身に着けている「装飾物」、彼女を離れて「物体」となった体毛などには効果がある。また、魔名術によって引き起こされた現象、環境の変化には影響を受ける。
「得なんだか、損なんだか、よく判んないわよね」
「
「美名が言うと説得力あるわ……」
そこで小さなクミは、小さな記憶を思い起こした。
「……もしかすると、クシャの教会堂師の魔名術を受けた時、私に静電気が起こらなかったのはこのせいだったのかなぁ」
「あぁ、『波導』使いの雷の力ね」
「これが、『客人』だからなのか、『ネコ』だからなのか、『私』だからなのかで、またちょっと違ってきそうな気もするけど……」
ちょうどその時、ふたりはヘヤの町を断絶するようにそびえる
その
「……町を出るんじゃないの?」
「ちょっと、寄っておきたいトコロがあるの」
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