第四話 現場調査

「ここが例の公園だね」


 有海が率先して入った公園は三日前、私が竜星と共に呪いを受けた場所だった。

 あの後すぐに有海と誠と一緒に学校を出た。高梨先輩はというと、何の役にも立てないからと言う理由で引き続き部室の片付けをするそうだ。ちょっとついて来て欲しい気持ちもあったが無理は言えないだろう。

 学校を出た私が二人を連れてきたのが、学校から徒歩二十分の所にある件の公園。私が竜星と呪いを受けた近所の公園。つまりは現場調査という事になる。


 夕方だというのに人っ子一人遊んでいないその公園はなんだか不気味な雰囲気が漂っていた。風に揺れるブランコがキィ、キィと音を立てると、より一層不気味さを増したように思えてしまう。


 入り口に立った私はこの間の夜の情景を思い出して立ちすくんだ。鮮明にあの時の恐怖が蘇る。


 怖くないと自分に言い聞かせながらゆっくりと足を踏み入れようか迷っていると、誠君が私を追い抜かして先陣を切って中へ入っていった。誠君について行くように有海も何の躊躇もせずに公園の入り口を通過した。


「まりあ! 大丈夫みたい。何にもいないよ!」


 有海の明るい声が公園に響いた。私を安心させようとしてくれてるのかもしれない。有海の優しさに応えようと私も一歩、足を踏み入れたが、それでも、やっぱり少し怖かった。


「無理、しなくていいからな?」

「え?」

「ここで呪いを受けたんだろ? 怖くても不思議じゃない」


私になんて興味がないと思っていた誠君からそんな言葉が出てきた事に少しだけ驚く。根は悪い人じゃないのかな。

 それにしても、さらりとこの腕のアザを『呪い』と呼ばれたことがとても気になった。入学初日に見たニュースが頭をよぎる。


「これ、やっぱり呪いなんだね」

「ぶっちゃけて言うとそうだよ! 低級妖怪が良くやる手法なんだけどさ。自分の力で誰かを殺める事が難しい妖怪が人間の負の感情がこもった言霊を使って呪い殺すのよ。契約を元に発動すれば、自分の手柄として自分が殺めたことになる。そうしたら、死んだ人間の魂を食らえるでしょ?妖怪は人間の魂を食らう事で強くなるんだって」

「……ここって現代の日本だよね?」


 物語の世界のような話を、さも当たり前のように話す有海に私は思わず聞き返してしまった。


「正常な反応だが現実的に『ありま』の腕には痣が出来てしまっているだろ?」

「『ありま』って何よ!? まりあだってば!」

「あー……ごめんね。誠に自分の名前を読んでもらうのは諦めた方が良いかもしれない」


何故か有海に謝られてしまった。誠君が名前を覚えられない事を有海が謝る理由が分からずに、軽く首を傾げてしまう。まぁ、それほど有海と誠君は仲が良いのだろう。


「そう言う事だ。諦めろ」

「なんで誠君が偉そうなの……」


 本当にへんてこな二人組だ。まぁ、お化け研究会を設立しようとしているくらいだ。これくらい変な人たちじゃないと、熱意をお化け研究会には費やそうとも思わないだろうと勝手に納得した。


「うーん。残念ながらここにはもう何もいないようだな」

「誠君も有海と同じで何か能力があるの?」

「まぁな。でも、今はそんな事どうでも良い。もうじき日が暮れるだろう? 急いだほうが良い」


 そうだった。時間があまりある状況だったらのんびり調査するのも悪くないのだが、私は今余命が四日という大ピンチの状況下にある。悠長にここに長居しているわけにも行かない。


「ここに常駐しているわけじゃない……となると、偶々ここに居合わせたのかな?」


 有海があたりを見渡すが、やはり例のネズミの妖怪とやらはここには居ないようだった。


「その可能性は否めないが……狙われていたのかもしれないぞ」

「狙われていた?」


 不穏な言葉に眉を顰めて誠君を見た。

 ふざけている様子が微塵も感じられない事が逆に恐怖心を煽る。


「さっきの話から推測すると公園へ行くと決めた事自体が予定にない行動だっただろう?」

「え、うん。そうだよ。竜星から電話がかかってきて、その時に決めた事だったから」

「だとすると尚の事、偶々そこに居合わせた……よりも……」

「……後をつけてついてきた?」


 誠君の言葉の続きを有海が肩を震わせながら補足した。竜星が誰かに狙われていたとなると、ますます穏やかじゃない。


「けれども、まりあにはネズミの気配なんて無いよね?」

「あぁ、つまり……ネズミが後を付けてきた相手……それは……」


 そこまで言われて私は二人の言わんとしている事を理解して後ろを振り向いた。

 私の目線の先にあるのは私の家ではない。


「竜星……!? 竜星が……つけられていた? 狙われていたのは竜星って事!?」

「その可能性が高いと僕は思うんだ」

「どう……して……?」

「理由は全く分からないけど、幼馴染君の所へ案内してほしい」

「呪いを説く鍵は幼馴染君が握ってるかもしれないよ!」


 二人に見つめられて私は不安で押しつぶされそうな心をどうにか奮い立たせて頷いた。私が、今ここで立ち止まっては何一つ解決しない。昨日は断られたけど、今日こそ竜星に会わなくちゃ。


「私、案内します!」


 目線のすぐ先にある竜星の家。

 青い屋根がここからでも確認できる、そこから目を離さないように、私はお化け研究会の二人を連れて歩き始めるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る