第5話 闇は全てを覆い隠す 後編②
扉を入ってすぐに階段があったので降りていくが、すぐ下の階に行くと地面に絨毯がひかれていた。さらに壁は何か布のような紙のような不思議な材質であり、天井には謎のガラス製の棒状の何かが連続して取り付けられている。
「流石に何百年も経ってるからか、もしくはこのイシスニアの生命力が枯渇しかけているからか……。虫や小動物の楽園になってなくて本当に助かるわ……」
フリントとミレイヌが見たこともない建物の造りに困惑しているのをよそに、シェリルはさも落ち着いて小言を口にしていた。その様子を見てフリントはミレイヌに尋ねる。
「……なんでこんな建物がこの地下にあるんだ?地下3層より上に比べて、明らかに異質じゃないか?」
「んー……説明すると長くなるんだけどね。後で落ち着いて説明するけど、とりあえず今言えることは、ここは過去にあった世界戦争から1000年前のイシスニア。つまり、元はここも電気やら機械やらを活用してた国なのよ」
「……そうか」
「気になるならもっと教えたげてもいいけど」
「いや……やめとく」
シェリルが続けて話そうとするのをフリントは手を上げて止めた。
「あら、さっきのタブレットの事と言い、結構食い入って聞かないのね」
「違うな。本当はもっと聞きたい。けれども」
フリントは真っ暗闇の周囲を見て、顔を強張らせながら言う。
「こんなとこで日が暮れるまで会話したくねえ……。日も見えねえし」
「まぁ……そこんとこは同意だわね……」
階段で1階まで降りるとそこには木目のカウンターがあった。フリントは興味本位でそのカウンターを触るが、そこでもまた驚くことになる。
「これ……木材みたいだけど木材じゃない……? これは……床の材質と同じなのか?」
木のようなザラザラした感覚はなく、まるで磨かれたかのようにツルツルとした感触。つまり固い材質に木目の印刷がされているということだ。そんな技術はイシスニアにあるとは聞いたことがない。
「機械を使えば、固い物体にそのような印刷をするのも容易ってこと。……そしてイシスニアはある時を境にそれを継承しなくなった」
「何故だ……?」
「……それも後で話す」
シェリルは目の前の出入り口を指さす。ガラス張りで作られた扉で、取っ手が存在しない扉。フリントとミレイヌはどうにかして開けようと調べてみるが、どこにも取っ手が存在せず、開けようがなかった。
「なんだよこの扉! 取っ手が無いじゃねえか!」
「ちょっと荒っぽい方法になるけど、フリント君、その辺のガレキで扉ぶち破ってくれない?」
「え?それがこの扉の……!?」
「そんなわけないでしょ。この扉は本来自動で開くの。……電気が通ってればね」
フリントは納得できないまま、付近に転がっていたガレキを一つつかみ、ガラスの扉に思いっきり投げつける。大きな音を立ててガラスは割れ、外へ通じる道ができる。
「やっと外か……」
フリントはため息をつくが、周囲の悪臭に吐き気を催し、深く息をしたことを後悔する。
「いい加減、服も何とかしなきゃな……」
フリントは愚痴を垂れ流しながら、ガラスを踏まないように慎重に外へ出た。やはり外も暗闇なのは変わりないが、なぜか感じたことのない圧迫感を感じ、フリントは身をよじらせる。同じ感じをミレイヌも感じていたようだった。そしてミレイヌが懐中電灯を上に向けて、その意味がようやくわかった。
「なんなんですかこれは……!」
道中あまり言葉を発しなかったミレイヌだったが、目の前に現れた光景に流石に心を奪われずにはいられなかった。
ビルが立ち並び、道路が整備された街並み。今のイシスニアとは比べ物にならない発達具合。そしてこれがイシスニアの地下に埋もれていたという事実。
「今のイシスニアの人たちは地下が5層まであると伝えられている。でもそれは少し違う。実際は地下4層って呼ばれるここが地上1階。そしてこの下にある地下街が地下5層って言われてるの。……私たちの目的はそこにある」
シェリルは建物に圧倒されるフリントの肩を叩き、先に進むよう誘導する。シェリルが誘導した先は、道端にあった地下への階段だった。階段には看板があり、『ナタール家・ボード家前』と書かれていた。
「ナタール家前……?あ、ここそういえば……」
フリントは合点が言った表情を浮かべ上を向いた。
「そう、ここはナタール家とボード家の間ね。さっきまではギミ家とナタール家との間にいたから、第一区画の一つの領土分横断してたわけ。地下で迷ってたから大分時間食っちゃったけど」
3人は階段を下りて、さらに地下へと向かっていく。階段の壁には写真が貼ってあり、当時の商品の広告が記載されているようだった。ただその写真一つとっても、今のイシスニアでは再現ができなさそうな高度な印刷がされていた。
地下に降りた三人はシェリルの案内の通りに進んでいく。全面タイル張りの地下の空間にフリントはまたしても面食らうが、あちこちに紋章があることに気づく。
「ん……紋章?」
「ああ、それは私が用意したの。ここ2~3か月はこの付近で住んでたから、念のため魔除けの紋章を用意してたのよね。おかげで魔獣とはさっぱり出くわさなくて、さっき会ったのが初めてだったけど」
「3か月って……。タイレルさんと会ったのは1か月前だから、その前からいたわけか……」
「そんなに時間がかかったのには理由があってね。……もうすぐその理由もわかる」
更に道を進んでいくと、何か道を塞ぐような機械があった。ただやはり“電気”が通っていないためか道を塞ぐ機能も完全に停止しており、ミレイヌとフリントはそれを避けるように進んでいった。
「あ、ここの道右で、そっから階段降りてください」
シェリルの案内にフリントはまた驚いた。
「まだ下があんのか!?」
「昔の人は地下をそれだけ活用してたってこと。逆にイシスニアが地下を使わなすぎなのよ。無計画にボンボン埋め立てて土地利用するもんだから」
更なる地下へ降りた三人だが、そこでミレイヌはあるものを見つけた。
「あれ?これは照明の紋章では?」
「この紋章があるってことは……やっっっと着いた……」
シェリルは深く安堵の息を吐いた。
「私もう魔力カラッポなので、ミレイヌさんお願いできますか?」
シェリルの頼みにミレイヌは頷いて答え、紋章を起動する。紋章から光が放たれ、辺りに明かりが灯った。
「これは……!?」
懐中電灯の指向性の明かりでは気づかなかった、そこにあるものにフリントは驚愕する。
「そう、これが私たちの脱出手段。これなら歩いて10日かかる道のりを、10時間以内に短縮できる。……この”地下鉄”ならね」
現在のイシスニアで動いている魔道列車はとは似ても似つかないスマートな形状。金属製なのはわかるのだが、鉄とはまた違う触ってわかる軽くて丈夫な車体。内部は今のイシスニアで見るようなボックス型の座席ではなく、車両の左右に座席があり、それはなるべく多くの人間を載せられるように考慮されているものだった。つまり、この列車には日常的に多くの人間が乗っており、利用していたことになる。
フリントはさらに内部を調べようとするが、ミレイヌに肩をつかまれた。
「なんだよミレイヌ。何か問題が……?」
「ええ、問題が大ありです」
シェリルも同様にうなずいた。
「ええ、大問題があるわね……」
ミレイヌ達が近づいたことでフリントもその問題に気づき、同意するようにうなずいた。
「ああ、確かに問題だな……」
3人は鼻に漂う異臭に顔をしかめ、一斉に肩をすくめた。
「「「くっせえよ……」」」
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