19着目 いざ! 試着!

    * 聖岳はじめin自室 10/5(火)PM23:28 *


『ふはぁ~~~~、終わったのであるぅ~~~~~‼』


 俺から見たら手を動かしてるようにしか見えないけど、レヴィアたんは配信画面を終了させたらしく、うーんと背筋を伸ばした。


 背中に寄りかかられたが、俺にとっては幸せの重みだった。


『あっ! す、すまぬ、気が抜けてしまったわ』


 パッと重みが消える。

 この三時間、ずっと触れ合っていた感触も離れて、背中が少し寂しさを覚えた。でも寂しさを覚えるということは、それだけ長い間、彼女が配信に打ち込んでいたということでもある。


「良いですよ、別に。……配信お疲れ様です」


 今までもコメントで書き込んできたけど……口にすると、また別の感慨深さを覚える。俺は自然と口元が綻んで――――レヴィア様の黒翼を撫でた。


「怖かったのに、よく頑張りましたね」


 頭頂部に生えた黒い翼がペタンと伏せている。

これまで仕事で関わってきた、どんな絹糸よりも滑らかで柔らかな銀髪を手の平で撫でる。


 心の底から思った言葉を口にして、目を細めていた俺は……こちらを見上げる空色の瞳が動揺に揺れていたことに気付いた。


『あ、そ、その……こ、こちらこそ……ぁり、がと』


 レヴィアたんは、両手を忙しなく彷徨わせ、もじもじと身をよじらせ、内股になっていた。


 ――なんでこんな反応になっている?


 そう自問した結果、俺はようやっと感慨深い気持ちから目が覚めることができた。


「す! すんませんでした! なんか、つい……」

『べ、別に? 汝は労ってくれただけじゃろ? 慌てる必要などない。気にするな』


 レヴィアたんはそう言い終えると腕を組んで、ふいっと振り返ってしまう。それ以上、言うことがなくなってしまい、気まずい空気が流れてしまう。


 ど、どうすれば……っ⁉ 

 俺は何か無いかと、話の種を求めてスマホを点けた。

 そしたら、ギィスコードからメッセージの通知が届いていた――――天海からだ。  


 即座に俺はギィスコードを開いて、天海のメッセージを確認する。


『そっちから頼んどいて、無視シカトとは良い度胸じゃない』


 怒りが滲み出ているメッセージを最後に、天海は沈黙していた。

 ゾッと肝が冷える。


 やべぇどうしよう……長いメッセ履歴をスクロールする。

 そして、それを見つけた時、俺は指を止めた。

 冷えた肝が喜色に暖められて、思わずほくそ笑む。


 明日、謝んないとな。それとお礼も

 そう思いながら、俺はレヴィアたんの方へ声を掛けた。


「レヴィア様。報告したいことがあります」

『何じゃ?』


「昨夜作った1着目の羽衣、データが届きました。着ますか?」

『着たぁーーーーーーい!』


 三千歳の堕天使は振り返るなり、まるでオシャレを意識し始めた少女みたいにキラキラと目を輝かせた。それだけに留まらず、ぺたりと伏せていた黒翼が千切れんばかりに羽ばたく。


 その輝く瞳に、舞い散る黒い羽根に、俺は面食らってしまう。

 まさかそんなに喜んでもらえるとは思わなかったから。


 特に今、彼女の凄さを目の当たりにしたからこそ……そんな人が、俺が作った物に対して、飛び上がらんばかりに喜ぶなんて俄かに信じ難かった。


「じゃ、じゃあしばしお待ちを。羽衣データ反映インポートさせます」

『うむ! 出来るだけ早くな! はぁっ……楽しみじゃ!』


 弾んだ息を少し苦し気に呑み込んで、彼女はパァッと表情を明るくする。

 その顔を見てから、俺はホロアクティにデータを送信しようとして……ふと思う。


 ――――本当にこの服で彼女は喜んでくれるだろうか?


 そんな疑問が、『送信』ボタンをタップする指を躊躇させる。……あんなにも楽しみにしてる彼女をがっかりさせたくない。


 でも。


『どうした? 早うせよ! 妾を待たせるでない!』


 腰に手を当て、指を差すレヴィアたん。

 俺は目蓋で不安を挟み潰した。ポンッと驚くほど軽い電子音が手元から鳴って。


『――ギィスコードより、3Dデータを確認。【ホロアクティB4N】このデータを現在、再生中の立体映像に反映(インポート)することができます。実行しますか?』

『イエスなのじゃ!』


「あっ⁉」と俺が叫んだ時にはもう遅い。

 レヴィアたんの声を認証し、ホロアクティは反映を実行した。 

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