20着目 堕天使、『着心地』を告げる

 

 黒い卵の形をしたデバイスから青白いレーザーが照射され、レヴィアたんの身体を爪先から天辺までスキャンする。


 レーザーは、レヴィアたんの黒翼のところで折り返して、再び爪先へ降りて行く。 

 途端、レヴィアたんの通常衣装であったスリットワンピースが、ジジジッ! と音を立てて俺の作った羽衣へと塗り潰されていった。


『おぉ~~~⁉ なるほど、こうして着替えるのじゃな!』


 レヴィアたんは感心した様子で、様変わりした自分の服を一つ一つ確かめていた。


 アームウォーマーで覆われた右腕を掲げる。セパレートパンツで露になってる右の太ももを見下ろし、スリットの入ったタンクトップの切れ間を指でなぞる。


「ど……どうですか、着心地は?」

 言ってから意味のない問いだと気づいた。だって立体映像だし、着心地も何もないだろうが。


 早鐘を打つ鼓動以外、何も感じられない。

 頭が、というより全身の触覚が真っ白だ。

 余りに頼りない感覚のまま、喜んでもがっかりもしていない彼女の表情をつぶさに見つめる。


『いや、着心地も何も実際には着てないからの』


 しげしげと新たに纏った服を見つめていたレヴィア様が唐突に、リズムを取り出す。爪先を上げて下ろして、タップする度に、セパレートパンツのチェーンが金属音を奏でる。


『うむ……見た時はエッチっと思っていたが……』


 爪先で刻んでいたリズムがだんだん全身で刻むようになっていき、ついにはその場で踊る。


『着てみたら……フフッ、訳も無く動きたくなるのぉ!』


 アームウォーマーに覆われた右腕をカッコ良さげ《スタイリッシュ》に振ったり傾けたりする様子は、まるで天上のストリートダンスのようで。


『あえて言うなら――――楽しい着心地じゃな!』


 堕天使は、咲きほこるような満面の笑みを振りまいてくれた。


 それは堕天使の笑顔と云うには、余りに無邪気で。


 神々しさなんて無くて。


 威厳なんて無くて。


 かといって堕天に足る闇も無くて。


 


   ただただひたすらに――――純朴な喜びに満ちていた。




 彼女は目を瞑って、自分自身を抱きしめる。

 身に纏った俺の服を抱きしめる。


『あぁ、これだ。これなのだ、妾が求めていたものは……よくぞ。

 よくぞ仕立ててくれた』


 開かれ、透き通った双眸が、不安に濁っていた俺の双眸を見据えた。

 そして、薄く滑らかな唇が五つの福音を、ゆっくりと紡いでいく。


『――――ありがとう』


 福音が真っ白だった体に温もりを与えていく。

 全身の肌に染み渡って、胸を温もりで満たす。


 作りたかった。 

 彼女が着る服を、この手で作りたい。


 そして、俺の服を着た宵月レヴィアが―――――今、目の前にいる。


 俺は立っていられずに膝を折る。感激が心臓を圧迫するほどに、胸の中を満たす。


「そ、れは……俺のこと、ばです」


 募らせた想いが、膨らんだ願望が、思い描いた夢が、熱く溶けて流れ出す。 

 あぁ、思えば初めてだ。


 今まで何百も服を作ってきたけれど……こうして、目の前で着てもらって、喜んでもらえるなんて。


 その相手が――――他ならない、貴女だなんて。


「レヴィア様……ありがとうございます」


 眼孔に閉じ込められた空色が、少し照れ臭そうに揺らめき輝いた。

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