17着目 怖いからそばにいて

 事情を聴くと、実にシンプル。


 先日のスマブラ配信でリエルにぼろ負けしたレヴィアたんは、罰ゲームとして今日の夜21時より『ホラーゲーム配信』をすることになっていた。


 朝からSNSで告知し、配信枠もでき、4桁の眷属リスナーが流すコメントが待機所を潤してる。そして配信開始まで残り10分といったところで、彼女が提案してきたこととは……。


「配信中、傍にいて欲しいって……怖いから手握っててみたいなことですか?」

『バッ⁉ 馬鹿を申せ! そ、そんなリア充みたいな罪深きことする訳無かろう!』


「そうですよね。両手空けないとゲームできないし」

『そ、そうじゃ! そんな気安く妾の玉肌に触れられると思うな! 

 調子こくでない!』

「こいてませんよ。どっちかと言うと……呆れてる」


 一瞬でも都合の良い期待をしてしまった自分に。

 でもレヴィアたんは違うように捉えたらしく腕を振って抗議する。


『呆れてるって何じゃーーっ! 

 ぶ、無礼であるぞ⁉ この堕天使に向かって無礼であるぅ!』

「あぁ! あぁ! すみませんすみません、だからポカポカ止めて!」


 ホロアクティを起動して、立体映像ホログラムで表示されているレヴィアたんが幼稚園児みたいなモーションで殴ってくる。


 拙い打撃に俺の腕が痺れることはない。宵月レヴィアはあくまで立体映像。

 向こうからは俺に触れることは出来ないのだ。


 けど、俺から触れに行くと確かに実体があって、レヴィアたんのなかみにも俺の感触がフィードバックされる。


 俺は一瞬、自分が幽霊になったような気分を味わう。

 向こうからは触れられないけど、こちらからは触れられる。うーん、仕組みとか考え始めたら意味分かんなくなるな。


 流石【ホロアクティ】、現代のオーパーツと呼ばれるだけのことはあった。


 ……あっ、つーか21時までもう5分無いじゃん!


「レヴィア様、こんなことしてる場合じゃないですよ⁉ どうするんですか、もう配信始まりますよ⁉ ていうか傍にいろって俺、何すれば良いんですか?」


 そもそもレヴィアたんが言っている「配信中、傍にいて」という頼みも、俺はよく分かっていなかった。傍に、ってどういう意味だ? このままギィスコードの通話を繋げるってことか?


 堕天使の深遠な考えを理解できずに尋ねる俺だが、レヴィアたんは意外そうに首を傾げた。


『何を言っておる。既に準備は出来てるであろう』


 レヴィアたんは自分のささやかな膨らみに手を当てて見せる。それは、うっすらと輪郭に蒼白い電光を纏った立体映像じぶんじしんを指していた。


『我が使徒よ。しばしの間……汝の背中を借りるぞ』


 キッと鋭く吊り上げた眦にウルウルと涙を溜めてるような。

 そんな奇妙な表情を見て、俺は……たまんなく可愛いと思ってしまった。

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