16着目 ホラゲー配信で泣きつく堕天使

      * 聖岳はじめin自室 10/5(火)PM20:49 *

  

『わたし、ファンなのに』と、天海の笑顔が思い浮かぶ。


『妾は汝の、聖岳はじめのファンなのに‼』と、レヴィアたんの顔が思い浮かぶ。


「まじかーー」 


 照明をつけるなり、俺は玄関先でぶっ倒れて、顔を覆う。

 手の平と目蓋に防がれた暗闇に浮かぶのは、クラスの友人と敬愛している推しのVtuberの表情。


 なーんだこれなんて言えば良いんだこの気持ち。

 腹の中で嬉しさと気恥ずかしさが渦を巻いてる。でも頭ン中では、どうしても彼女達の言葉を信じ切れなかった。


 だって、あの天海だぞ? 

 気が強くてサバサバしてて、部活に勧誘はしてきたけど、今までそんな素振りを一度も見せてこなかったあいつが――――俺の、ファン?


 そんな訳あるか、自惚れんな。そうやって自分を否定するには……天海の別れ際の笑顔は、余りに純粋過ぎた。


「あれを嘘って言っちゃいけねーな」


 例えお世辞だったとしても、俺だけは、あの笑顔を疑ってはいけない。

 だとしても……百歩譲って転校先で仲良くなった友人が【螺旋欲デザイアコレクション】のファンだとしても――――推しのVtuberまでファン《そう》って言うのは…………。


「あまりに都合よすぎねーか?」


 顔を覆っていた手を掲げて、逆光で陰に染まった手の平を見上げる。


 今日の夕方。天海に部室に連れて行かれた時、あいつに手を掴まれた。


 昨日の深夜。レヴィアたんの申し出に感極まった時、俺は彼女の手を握った。


 そして今、天海とレヴィア、二人の手に触れた俺の手のたなごころには微かで明確な違和感が宿っていた。その違和感とは……相似感。


 


 SiiForteで数多の布の感触を味わってきた、俺の触覚がそう告げていた。


「……一周回って馬鹿になってないか俺」


 幾ら幸運が信じられないからって、疑った挙句こんな馬鹿な考えに行きつくなんて。寧ろ、そっちの方があり得ないだろ。


 クラスメイトが大手Vtuberだなんてよ。


 ――ポコン、と耳に残る通知音がポケット越しに太ももを震わせた。

 この音はギィスコード。

 BINEとはまた別のコミュニケーションアプリだ。BINEとは機能に違いはないが、ゲームする時少しだけ通話がしやすい。


 そんなギィスコードを愛用してるのは、俺や市川みたいに深夜にゲームをする奴や……何かとゲームと関わり深いVtuberだ。


『我が使徒よ、緊急である! ただちに通話を命じる!』

「うぉぉぉお……ま、まじでメッセ来た」


 今朝起きたら、PCにギィスコードのIDが書かれたメールが届いていた。まさかと思ってフレンドに追加したら、それは――宵月レヴィアのアカウントだった。


 まさかまさかと思っていたけど、え、これ本当に……レヴィアたんのアカウントだったんだ。俺はスマホを床に置いて、バンッ‼ と手を合わせる。


「すまない、眷属達……っ! でもこれは仕事、あくまで仕事だから……っ‼」


 申し訳なさと恐れ多さにブルブル指が震える。

 それでも俺はゆっくりと通話開始ボタンをタッチしようと、着実に指先を近付けて――――――先にレヴィアたんの方から通話を掛けてきた。


 ざわっ⁉ と産毛が逆立って、腕の血の気が退く。

 彼女を待たせてしまった!


 俺はすぐさま青緑の通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てた。


「はいっ、聖岳はじ」

『わぁぁぁーーーーーーああああん‼‼ 

 ホラゲーやだよお、使徒ぉぉーーーーーーっ‼‼‼』



 ……あ?



 突然推しに泣きつかれた俺は、思わず目を瞬かせた。

 とにかく羽衣しごとに関係することじゃないのは確かだった。

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