13着目 チアガールの腰つきに我慢ならん
天海はしかめっ面のまま、チア服に身を包む姫宮さんの腰やくびれを撫で繰り回していた。
「は、はじめくん⁉」と、一気に頬が赤く染まる姫宮さんに、
「紗夜! 動かないで、腕上げて!」と、天海は目を爛々とさせて叱りつけていた。
「――たまんねぇなぁ‼」
「正直過ぎだろ、はじめお前。つーか天海! なんでチアのコスプレしてんだ⁉」
「縫製チェックに決まってるでしょ!」
今朝方、ダンス部から服飾部に依頼が来たらしい。
なんでも四日後までにチア服を三十着仕上げないといけないらしく……端的に言うと、修羅場だった。
「ちょっと! 脇下から裾までの仕付けしたの誰⁉ しっかり仕付けしないと、ここのウエストラインが滑らかにならないでしょ!」
「すみません、部長!」
普段は見かけない五、六人の部員に、天海が檄を飛ばす。おぉ、さすが部長。でもチア服のせいで肝心の貫禄が全く感じられない。どころか……。
「あ、あの
「駄目。ん~、やっぱりカーブの頂点で縫い目がガタつくわね」
十字の姿勢のまま動けない姫宮さんの腰のくびれを、天海は指先でスゥッとなぞる。至って真剣に思案している天海だが、姫宮さんの羞恥で潤んだ表情には少しも目が行ってなかった。
代わりに
二人が着ているチア服はトップスとスカートが繋がった、構造は単純なワンピースタイプ。生地はポリエステル百%の、軽やかなスムース生地。
したがって
でも姫宮さんは違う。……明らかに服の方が姫宮さんの
いつもは腕を交差させて隠しているバストが露になっている。
スムース生地に内側から吸い付くバスト足るや、市川の
でも俺が見てたのは姫宮さんのバストじゃなく――――ウエストラインだ。
両腕を上げ、袖口から覗く腋から腰へのラインは惚れ惚れするほど滑らかだ。
それこそ、指を這わせたらあっという間に滑り落ちそうなほど。
だからこそ……それを覆うチア服の杜撰な
「――天海、ミシン借りるぞ」
「は? え⁉ ちょ、ちょっと待ちなさ」
天海の返事を待たずに、俺は被服室に置かれていたミシンを作業台に移す。
部員達が慌ただしく行き交う被服室を見回す。
全体の作業構成、作業ペース、担当作業員の配置を速攻で推察。
作業台の上に並べられた『仕付け待ち』のチア服を手に取った。すると、仕付けを担当していた部員が仕付け糸と針から手を離さず、俺を注意する。
「あっ、ちょっと! それまだ仕付けが終わってないですよ⁉」
「待ち針借りるぞ」
作業台の端に置かれていた針山から待ち針を三本引き抜き、唇で柔く咥える。そして持ってきておいた
髪を逆撫でに掻き上げて、五感と精神をリセット。
『より良い服を作るため』という目的の下、五感と精神を書き換えていく。
「おいおい勝手すんなって、はじめ! 今日はもう出直そうぜ⁉」
悪い、市川。それはできない。
全ての美は曲線に宿る。そして、女体は曲線の集合体。
だからこそ、女性が最も美しい姿は全裸だ。――――故に、それを覆い隠す『服』は、一糸纏わぬ裸よりも美しく在らねばならない。
間違っても、女体の美に陰りを持たせてはいけないのだ。
そんな職務の誇りが、俺の指先を繊細に突き動かした。
脇下・ウエストのくびれ・スカート端の三点に刺した待ち針を道標に、ミシン針と糸が流麗に生地の上を駆け抜ける。
「
そうして仕上げたチア服のウエストラインは、姫宮さんのウエストラインに沿うに相応しい仕上がりになった。
「早ッ⁉ 嘘だろ、仕付け無しで⁉」
「待ち針だけであんな綺麗に縫えるの⁉ しかも三本だけ!」
気付いたら、慌ただしく被服室を動き回っていた部員達が全員目を見張って、俺が手に持つチア服を見つめていた。だけど俺はその注目のチア服を丁寧に折り畳むと、表情を固まらせた天海を一瞥した。
「――次に取り掛かって良いか、部長」
その一言に、天海は驚愕からハッと帰ってきて、
「作業構成を変更! 仕付けは最低限に! 皆は襟と袖口のバイアスとフレアスカートの縫製に集中して!」
俺を作業構成に組み込んだ、新たな指示を出した。
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